『赤ちゃん泥棒』

 コーエン兄弟の作品はだいたい好きなのだけど、これは未見だった。邦題としては良いけれど、いまいち借りようって気にならなかった。あまりにファミリー・コメディって感じかなって。
 その予感は半分アタリで半分ハズレってところ。コーエン兄弟だけに、一筋縄じゃいかない。おなじみの変な犯罪者たちやらなんやら、毒も多い。で、ラストはグッとくる作りになってるあたりも好きだな。
 ただ、全体的に冗長な感じがした。部分ごと、ピースごとは良いのに、全体がビタッとしてスパっと流れてる感じじゃない。もうちょっと各人の立場を際だたせて、文字通り争奪戦的だったり、駆け引き的な中でドタバタをやってほしかった。無い物ねだり。
 ただ、やっぱり登場人物は面白いの揃い。特に主人公のニコラス・ケイジはよかった。ダメ男っぷりがなんともいえない。アロハ・シャツのセンスはいいけど。で、こいつ口ひげ生やしてるんだけど、もう途中からつげ義春の『無能の人』の主人公に見えてしかたなかった。『無能の人』をハリウッド映画にするなら、主演は決まりだな。あと、桜玉吉の漫画の桜玉吉役もこなせそうだ。がんばれ、ケイジ。
 あと気になったこと。主人公の上司がポーランド人を馬鹿にするジョークを連発する。しかも、上司がそのジョークすらまともに言えない馬鹿というギャグなのだけど、これって「ポーランド人=馬鹿」という(ジョークが定番としてあるという)前提がないとわかんない。自分はhttp://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Cupertino/2261/sekaishi/などを読んでいて知っていたけど。まあ、知っているからといって、米国人に作用するように笑いが作用するかは別だけど。ラストの夢の中で、ポーランド系と思われる警官(コワルスキーとかいう名札つき)に馬鹿なジョークを言って…というギャグもあったけど、字幕じゃ無視してたな。仕方ない。オーラスの落ちも民族(?)ジョークだったけど、こちらはケント・デリカットがわざわざ日本に広めたユタ・ネタだったので、知識としては日本人におなじみだろか。