豚肉の消えた人生

 お好み焼きと関係ない話から書く。先日、夏に買った冷や麦の残りを見つけた。寒くなってくる季節の中、冷たい冷や麦の活躍する場はない。そこで私は、「冷や麦もパスタと同じ小麦の麺だ。パスタのように食ってやろう」と思いついたのだ。茹でた冷や麦を水にさらさず、あえるだけのたらこソースに混ぜる。実に簡単じゃありませんか。そして、その出来映えに私は震え、うーんと唸ってしまった。麺同士がくっつきあってしまい、実に食感が悪い。世間なんて冷たいものだ。思わず「荷物をまとめて夜行列車で田舎に帰ったらどうだ?」と言いたくなった。このように、料理人の腕次第で、素材が台無しになることもあるのだ。これはサラリーマンだって同じこと。上司の腕前いかんで、人生が大きく左右されることだってあるのだ。
 しかし、時に料理人の勘が当たることもある。お好み焼きに鶏のむね肉である。お好み焼きの材料を考えると、ベラボーに年俸が高いのは豚肉だ。そこで、「同じ肉ならボリュームのある鶏のむね肉を使えばいいじゃないか」と思いついたのだ。結果、薄切りにされいったん電子レンジで加熱された鶏肉は、余計な油も取れてカラッと仕上がることになる。そして、朝起きたときはお好み焼きの主役だった豚肉が、午後には居場所がなくなってしまったのだ。この仰天の人事異動。こんなことをする私は、たまらないくらい、貧乏人中の貧乏人じゃありませんか。