高橋建FA権取得

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 高橋建と関係ない話から書く。維新三傑の一人である西郷どんは、隆盛の名で知られている。しかしこれが、父親の名前が間違って広まったというのは有名な話。同じく弟の西郷従道も、本来の名前は「隆道」である。「りゅうどう」と言ったのを、訛りで勘違いされたのだ。もしも、自分の名前が間違って広まってしまったら、あなたはどうしますか? もしも私なら、顔真っ赤になって訂正してしまう。ここらあたり「名前なんてどうでもよか」と笑い飛ばしてしまうあたり、男の中の男じゃありませんか。
 高橋建も間違えられやすい名前の持ち主である。高橋健という誤表記は、ネットのそこら中に転がっている。気が弱そうで優男風の高橋建は「どうでもよか」と笑い飛ばせるタイプには見えない。「だから、わざわざ環境を変えて戦う度胸なんかないんじゃないか?」と思われるかもしれない。しかし皆さん、この高橋建意外と侮れない男なのである。
 週刊ベースボールという雑誌に、あるテーマについてのアンケートを、一球団一人ずつ答えるというコーナーがある。安月給の私がこの雑誌を買うのは年に一度、選手名鑑号のときだけである。そして、その号のテーマは「名鑑のどこを読みますか」というもの。他の選手は「年齢の上下をチェックする」、「出身地を調べる」などと答える中、高橋建は何と言ったか。その後私の高橋建観を一変させる台詞をはいたのだ。「自分と同じくらいの選手の年俸を調べます」。
 この一言を聞いて、私は震え上がった。ご存じのように広島カープの年俸は安い。私の安月給と比べれば北極と南極くらい違うが、同じバットとボールで飯を食う男たちの中ではベラボーに安い。そんな中、かつての百姓一揆が起こせそうな面子はどこへやら、安月給に文句を言わずリストラ時代を生き抜くサラリーマンのようなカープの面子である。その中にあってこの台詞が高橋建の口から聞けようとは、私はうなる思いがした。
 「あいつは成績にムラもあるし、いつまでも本格化しない」。そんなことを言われながらも、首を切らずに見守ってくれた球団である。戦中派の人間なら「俺は骨になってもこの球団に尽くす」と、神風特別攻撃隊のように思い詰めてしまうだろう。しかし、見た目も現代っ子高橋建は違うのですね。そこをさらり飛び越えて、自分が本当はいくらで売れるかをちゃーんとわかってる。
 野武士集団とも言えなくなってしまったカープ。見せかけだけの土臭さではなく、こういうクールさも妙薬なのか。