モスはレストラン

 今日は休日出勤。ちょっと遅いランチは、関内駅前の道を挟んだモスバーガーへ。関内に来てから、ここを利用するのははじめて。近くに「なか卯」「すき家」「マクドナルド」、あるいはコンビニがあるしね。あと、このモス、朝から深夜までいっつも混んでるんだ。モスについては、自分の人生を振り返っても、大井競馬場内の店舖でカツバーガーかなにかを食べたことしか記憶にないな。行動範囲内に無かったし、「なんか高そう」「時間掛かりそう」「なんかお高くとまってんじゃねえの?」ってのが理由かな。
 で、モス。関内店は緑看板で、限定品なんか売ってるんだよね。それにしてもエライ混みよう。ふと見ると、ハマスタで野球があるみたい。試合前は、こっち側のファストフード店とか、コンビニとか、無茶苦茶混むんだよね。けど、こんな寒い中観戦するの大変そう。
 私が選んだのはマスタードチキンバーガー。実はちょっと前から気になっていたのです。本当は「匠味バーガー」とかいう限定品の、アボカド山葵の食べてみたかったんだけど、単品八百八十円って、ちょっと少ないお小遣いからは出ないよねぇ。で、注文したんだけど、店内も品物待ちの人でいっぱい。しばらく待つことに。
 そんな中、一組のけっこう若いカップルが注文に来ました。店内は混んでるのに、レジはちょうど誰もいなくて、なんかみんなに注目されてるみたいな感じ。そこでそのカップル、「アボカド山葵」を注文したじゃないですか。私は腰を抜かすほど驚いた。
 「たかがハンバーガー一個に八百八十円払うのか」というのが、昭和生まれの私の偽らざる思いである。しかも、注文した時間は一時五十五分。限定品の販売は二時からである。「彼女の手前、限定品を逃すわけにはいかない。しかし五分くらいのフライングなら問題ないだろう」という計算なのだ。今どきの男は頼りなさそうでも、ちゃーんと考えている。
 しかし、男の人生は半年後どころか五分後もわからないものである。前代未聞の五分前注文を聞いたレジのパートが、奥に確認に行く。そして、帰ってくると、私のモスバーガー史に語り継がれる名言をはいたのだ。「ただいま混雑しておりますので、三十分お待ちいただけますか?」。
 「三十分」、文字にすればたったの三文字である。しかし、その意味は鉄の塊よりも重い。繰り返すが、単品八百八十円のハンバーガーである。まさに、男一世一代の勝負どころじゃないですか。それを三十分待てという。まさに、神風特別攻撃隊として水盃を交わして飛び立ったら、エンジンの不調で引き返さねばならなくなった操縦士のようなものである。
 こんな非常事態にその男はどうしたと思いますか? 「三十分……」と力無くつぶやくと、フラフラと彼女を連れて出ていってしまったのである。四半世紀の人生で見た、ハンバーガー屋でこれほど打ちひしがれた人間は、今日の彼しかいない。このつらい体験も、人生につーんと効く山葵の妙味なのか。