食わず嫌い王決定戦を見た

goldhead2005-07-15

プロ野球 運命を変えた一瞬』近藤唯之(ASIN:456957064X)より

「おい宇野よ。ステーキを食いに行こう。お前400グラムは軽いだろう」

 打球をヘディングして日本プロ野球史上に名を残したのは、宇野勝ただ一人である。そして、今後百年間流され続けるであろうその映像の中、マウンドで帽子を叩きつけるのが他ならぬ星野仙一その人である。
 「宇野がヘディングをしたときの投手は星野だ」と記憶する人は多い。しかし、その前後にあるエピソードとなるとどうだろう。実はこの試合、星野には一つの決意があった。対戦相手の読売巨人が続ける連続試合得点記録を止めて、完封勝ちしてやろうというのだ。それを記者にぶちまけて立った気合いのマウンドである。それが、宇野のボーンヘッドによる失点で、別の意味で語り継がれる試合になってしまった。
 しかし、しかしですよ、ここで星野は宇野を責めたりはしないんだなぁ。試合後、あまりにしょんぼりしている宇野に、ステーキを食いに行こうと誘ったのだ。これが投手と野手の信頼であり、エースの度量というものである。ところが、話はこれで終わらない。なんと、ステーキ屋に向かう道中で、先を行く星野の車に、宇野は軽く衝突してしまうのである。そして、宇野が言った台詞は「星野さん、またおでこで――すみません」。その後、ステーキ屋で400グラムを平らげた宇野は、無邪気に「あと200グラムはいけます」と言ったのであった。
 前置きが長くなったが、その星野仙一が、とんねるず食わず嫌い王決定戦に登場したのである。あの闘将と呼ばれた男が、大嫌いなパクチーを脂汗を流しながら食い、自分の娘ほど年齢の女優に相好を崩すのである。この様子を見たら「あの時ベンチ裏で殴られた俺の血反吐はなんだったんだ」と中村武志捕手(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)などは言うかもしれない。
 ところがこれも、星野一流の作戦なのである。対決が終わった後、阪神ファンであるという伊東美咲を野球観戦に誘い、こう言ってのけた。「なんなら岡田の横でも平田の前でもいい」と。私はこれを聞いて腰を抜かすほど驚いた。伊東美咲阪神ベンチに。なんて素晴らしいアイディアじゃないですか。伊東美咲がベンチに居たら、監督、コーチ、選手も試合どころじゃなく、チヤホヤするに決まっているのだ。そうなることは、タイガー&ドラゴンで実証済みである。そうなれば、試合どころで無くなって阪神は負ける。その結果、独走態勢が崩れ、ペナントに活気が戻るというわけである。もちろん、その様子見たさに視聴率もアップするから一石二鳥。食わず嫌い王決定戦で相打ちになろうとも、骨を切らせて肉を断つ闘将の采配は健在ということなのか。