日本人の三蔵法師について

 三蔵法師というとやはり玄奘のイメージが大きい。大きいが、三蔵法師は中国皇帝が優れた僧に与える位であって、固有名詞ではない。たとえば、空海入唐の際に彼にサンスクリット語を享受したのはインド僧である般若三蔵だ。そして、同じくその般若三蔵に師事して、ついには三蔵の位を得た日本人僧がいる。霊仙である。しかし、玄奘空海に比べて霊仙はマイナーだ。俺も最近密教絡みの本を読むまで知らなかった。
 で、霊仙はすごい僧である。空海も皇帝に謁見して‘五筆和尚’の名を授かったというエピソードがあるが、霊仙は宮廷常勤僧である内供奉十禅師にまで取り立てられてられた。そこでの重要な仕事の一つに国家鎮護と外敵調伏の「大元帥明王法」があった。霊仙はこの法を祖国日本に持ち帰らねばならぬと考える。しかし、これはまさしく持ち出し禁止、国禁の法に他ならない。結局霊仙はその思い願わぬまま、政変に巻き込まれて毒殺されたと言われる。
 ……というような話を、上の『西遊記』の感想に混ぜようと思ったが、混ぜようがなかった。