恩寵と裏切りについて

 神は、六日目に人を創造した。そして「生めよ。ふえよ。地を満たせ。地を従えよ。海の魚、空の鳥、地をはうすべての生き物を支配せよ」と祝福した。その轟きわたる声に応えて、天は割れ、上司から「脚もとのストーブのスイッチを切り忘れたような気がする」と電話が掛かってきた。
 金曜の夜、といっても部屋に帰って飯を食って寝るだけだけれど、そう言われたら、行って確かめるなきゃいけないじゃないですか。とはいえ、もしも火事にでもなったら、食い扶持を失うのは私も一緒だ。また、こういうときのために一駅の近さに住んでいるという面もある。そういうわけで、夜道を歩いて、朝の道とまったく同じ道を歩いて、ここにこうしている。
 ストーブのスイッチは切れている。私は、部屋に帰って見つけた郵便の不在通知を持ってきている。二十三時以降に郵便局を訪れれば、引き渡されるだろう。役所からの、受け取りたくはない、送付物を。ケルビムと、輪を描く炎の剣は、いまだエデンの東に輝いているか? 私がまたこの部屋を出るときに、あらゆるスイッチを気にして、なにかの実験動物のように部屋から出られなくなるのを、また、朝と夜、私が部屋から出るときも同様だったのを、知っているか?