東京大賞典


 五レース直前の到着。返し馬。大外枠のハセノホクトが目の前を通った。動きが素軽い。コメントに目下絶好調の文字。メンバーを見れば内に先行馬多く、差し切りの期待。馬券を買う。三四角から仕掛けて上がってくるハセノホクト。「差せ!差せ!」と自分でも驚くくらいの声が出る。いきなり単勝馬連的中。
 六レース。ここも似たような構成。先ほどの繰り返しとばかり八枠トートテンペスト。直線入って横並びからしぶとく伸びて二着。一着は同枠のアルバート。今日は外枠の差しが決まるのかと思う。
 七レース。パドックと持ち時計、そして千四のコースから三枠ハヤテカザンに傾きかける。が、近走のタイムはそれほどでもない。ほかに人気どころのブラッシングスカイ、ビーラブドゥ、そして大外の差し馬ビッグライデンの馬連ボックス。単勝、迷ったが流れとばかりビッグライデン。これがまた差し切るのだからたまらない。三連勝。ここで帰るのが馬券師なのだろう。いればの話だが。俺はミーハー競馬ファンだ。
 八レースは心が曇った。外枠、差し馬の傾向はともかくとして、山田信大びいきということで三百九十キロのパルマローザ。アグネスタキオンの子で、中央から転厩二戦目。人気していたのは、同じく中央から来て二戦目、しかも一戦目に山田を乗せて一着、今回は内田博幸のローランラムズ。なにくそ、などと思ってしまった。心情が入ると馬券は悪い。このレースから及川サトルの実況。大賞典を乗りにきた倉兼育康や、ミスターピンクこと内田利雄を盛んにアナウンス。「ミスターピンク」なんて馬の名前と混同させそうだが、いいじゃあないか、そのサービス精神。

 九レース。うってかわって一枠一番の先行馬トミケンスティーマ。流れが変わってしまったのを感じる。勝ったのはミスターピンクこと内田利雄のワットアデイ。これは差し馬だったので相手としては選んでいたが。二着人気薄で大波乱。
 この九レース、見たのはふるさとコーナー内のモニタ。そう、「ばんえい競馬発売中」のアナウンスを聞き、ふるさとコーナーにいた。着いてみたら締め切り五分前。オッズを見ると、一番の馬からの馬連が十倍台程度なので、とりあえずわけもわからず単勝馬連を三点買って観戦。はじめてのばんえい観戦。俺のはじめてのばんえい馬券は外れた。なんと説明していいかわからないが、二番目の障害にさしかかるまではよかったように思う。ぴたっと止まるのがおかしい。
 ふるさとコーナーはかなり混み合っていたように思う。どうも、ばんえいの新聞を配布していたようだが、もうなくなっていた。「読み終わったら譲ってください」と一角に陣取った人たち―関係者というか支援者というか、テレビで見たような顔の人などもいた―が呼びかける。俺は壁に貼ってあった新聞を見て、次のレースも買う。さきほどたまたま買った騎手の馬に印がついていて、それの単勝と印参考に馬連単勝が売れる公営は南関東くらいというが、まあ何も知らないからしかたない。あとで戻ってきて見たら、今度はちぎって勝ってくれた。二着はおしくも外れた。二着争いはなかなかのデッドヒートで、相手が止まってくれ、と願ったかなわなかった。止まってくれ、という願いも変な話だ。馬券はトリガミだったが、ばんえい存続へのご祝儀として払い戻さずに……と思ったが、調子が落ちていたので払い戻しを受け取る。ふるさとコーナーは、俺が来はじめたころの多いの雰囲気。新館など苦手な人は、ここがいいかもしれない。俺はどっちも好きだがね。
 そんなこすっからいことをしたから、運も、そして競馬新聞も落とす。トイレに入るときぞんざいに突っ込んでいた俺の日刊競馬パドックで広げようとしたら見あたらない。「落とした」という確信を持って、モスバーガーの右横を抜けて来た道を辿る。と、おそらく何かを拾う仕草をするおっさん、そして新聞を広げる仕草をするおっさん。ああ、あれだと確信。が、わざわざ名前書いてるわけもねえし、どうしたものだろう。どうにもできず、そのまま興味失ってそこのゴミ箱に捨ててくれねえかと思っていたが、なんか興味津々という風に新聞を見る。小脇に抱えていたのはスポーツ紙のよう。うーん、仕方ねえや。くれてやるよ。で、大賞典含めて三レース。もう五百円日刊競馬に払う俺。日刊競馬は去年カレンダーをプレゼントしてくれたから、いい新聞社なんだ。今年は買ったけどな。
 そして、大賞典パドック。一応カメラを持っているので、それなりに前に行きたい。が、上の新聞のことあって、ちょっと出遅れ。でも、ポジションは取れた。悪くない。が、逆に客足が心配になりもする。けれど、このころには身を切るような寒さ。新館の中などかなり混雑していたようで(一回入ってすぐに出た)、そのせいということにしておこう。

 パドックで気になった馬はシーチャリオット。悪い意味で。雰囲気に、あのビカビカのオーラが感じられない。覇気がない。ずっとクリス厩務員に甘えるような仕草で、これは走らないと思った。気配次第では狙いたい馬だったのだが。一方でよく見えたのはナイキアディライトハードクリスタル。この二頭、オッズのこともあって狙いたくなった。ただ、頭は決まっていた。朝から頭のどこかで考えていて、やはりここはアジュディミツオーで決まりだろうと。鉄板だろうと。過去二度逆らって失敗した分、ここで取り返そうと。この日のパドック、馬体はプラス二桁ながら、去年の大賞典と同じくらい。というか、帝王賞が減らしすぎていた。絶好調じゃなくとも、地の利もあって勝てる。ただ、パドックではもっさりとしていた。とはいえ、これも過去二度騙されたあたり。こういう馬なのだ。
 馬券はミツオー頭にフォーメーション。ここで一つショッキングなことあって、点数確認のために携帯で見ていて、なんならこのまま買ってしまえと買った馬券、打ち間違いで二番ナイキアディライトのはずが一番クーリンガーになっている。まあ、クーリンガーはこのレース三着経験馬で、大穴の夢を買ったと思えば悪くない。ただ、ナイキアディライトは本線のはずだったので、こちらは券を買う。ただ、買い目が随分増えてしまった。ほかにハードクリスタルシーキングザダイヤボンネビルレコードボンネビルレコードパドックで少しちゃかついていたが、外の差しに賭けてみたのだ。
 賭けた相手が間違っていた。ブルーコンコルド。完全にオミットしていただけに(パドックでの印象もあまりない。ただ、短距離っぽい馬体とは思った)、かえってすがすがしい。というか、ミツオー、目の前でシーキングザダイヤに番手を奪われるのを見て、負けを確信した。それでも四角、ダイヤにかぶせられて厳しい最内を突く素振りあって、思わず「内田なんとかしろ!」と叫んだものだが。二着クーリンガー、三着シーキングザダイヤクーリンガー、侮れない馬だったか。
 かくして大賞典は負け、最初のプラスもおみやげや飲み食い(「飲み」はタダ茶しか飲んでないが)なども含め、おおよそ飛んでしまった。さらに二レースあったが、寒さに負けてこの日は帰った。おけら多い帰り道、「結果論で言うんじゃねえんだ。半年ぶりで一回出てきてG1勝てるほど甘くはねえんだ! 競馬ってのはそういうもんだ! わかるか、川島!」と絶叫してるおっさんがいた。俺はミツオー買って後悔ないけどな。川島先生はどう思う?