『一日一禅』秋月龍みん(みんは王へんに民)

一日一禅 (講談社学術文庫)
 タイトルからすると、三百六十五日分のありがたい言葉、心があたたかくなる言葉、あいだみつをみたいな言葉が記されているような本とも思える。が、内容はピーキー公案の集まりであって、すりこぎで師匠の頭をぶん殴ったり、急に相手の鼻をねじ上げたり、扉を閉めて足をへし折ったり、自分で叩ききった自分の腕を投げつけたり、「お前はまだあの女を抱いていたのか。わしはとっくに河に捨ててきたぞ」とか言ったり、「生まれてすぐに天上天下唯我独尊なんていうガキがいたら、棒でブッ叩いて犬に食わせる」とか言ったり、そういった禅の世界が展開されているので一安心。それでいて、訳のみの『無門関』の文庫とは違い、著者の老婆心によって解釈の手助けになるヒントのかけらもあって、たいへんありがたい。むろん、答えのあるものでもないが。
 で、俺にとっては、同じ著者の『誤解された仏教』(id:goldhead:20070328#p4)や『般若心経の智慧』(id:goldhead:20070606#p2)の復習になるようなところもあった。鈴木大拙の話なども出てきて勉強になる。なんとなく牛の足跡くらい見ることができているのか? くらいの気持ちにはなれる。俺にしては珍しく、文庫のカバーをはぎ取って、ぐにぐにと開きやすいように癖までつけてしまったのだから、これからも開くだろう。
 だいたい、なんというか、ショートストーリー、サドンフィクション(asin:4167254026)としてだけ見ても十分楽しめる。読み物として大変エキサイティング。これはもう、ほかになかなか得がたいように思う。禅、すげえなって思う。