『ディック傑作集3 ゴールデン・マン』フィリップ・K・ディック

ディック傑作集〈3〉ゴールデン・マン (ハヤカワ文庫SF)

ディック傑作集〈3〉ゴールデン・マン (ハヤカワ文庫SF)

 『暗闇のスキャナー』に続いて、またまたディック。短編集。解説にも書いてあるけど、まずディックによる「まえがき」がいい。半生記とも言えるし、エッセーとも言えるし、SF論とも言えるし、俺的にはヴォネガットと仏教への言及があったりするのでいい。それで、いろいろな作品の種がちりばめられていて、そうだったのか、とか思ったりする。
 ディックの短編は名作揃いだ。でも、この短編集を買ってからしばらく経って……って、『パーキー・パットの日々』の感想(http://d.hatena.ne.jp/goldhead/20050127#p1)に書いてるな。まあいいや。ただ、この本のいくつかは、尻切れトンボ感はあったな。でも、ザクッと来てるやつとか、ちゃんとオチがついてるやつとかもあって、やっぱり面白い。それに、キルゴア・トラウトじゃあないけれども、脹らませすぎたものよりも、原液の方が面白いってこともあるかもしれない。
 「妖精の王」は一風変わったファンタジー。ある嵐の晩、妖精の王とその従者たちを助け、そのせいで次の妖精王に指名されたのが……田舎で一人ガソリンスタンドをやってるじいさん。本人解説によれば、はじめはバッドエンドだったらしいが、どういうバッドだったのか想像がつかない。「融通のきかない機械」、‘The Unreconstructed M’はタイトルがかっこいい。それにこれ、出てくるガジェットがいきいきしてていい。表題作「ゴールデン・マン」はよくできたもの。進化した人類と旧人類の関係、テーマの一つだな。「リターン・マッチ」もディックがテーマとするおもちゃもの。ありがちだけどおもしろいオチ。「小さな黒い箱」は『電気羊〜』のベースというか、はて、『電気羊〜』の記憶が……。そうだ、禅、だ。禅が一世を風靡したあと、という世界? 南泉斬猫とか会話に出てきてた。独自の神学(?)を打ち立てようとしたディックだが、禅(仏教)からの影響も無視できないのかも……。「ヤンシーにならえ」、ヤンシーはアイゼンハワーがモデルというが、まあ、わからんし、わからなくてもいいだろう。でも、なんとなく、この惑星の状況は……。

ヤンシーの信条はことごとく退屈なものだ。鍵はそのうすっぺらさにあるんだよ。やつのイデオロギーはどこをとってもうすめられている。いきすぎたところはひとつもない。可能なかぎり、無信条になるようにしむけたんだ……あんたもそれに気づいたはずだ。

 ってね。さて、四巻の方もあるので、気が向いたら読もうっと。