『官邸崩壊』上杉隆

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

 「タイムリーだから」と人からすすめられて借りた本。上杉隆……、ワイドショーとかに出てくる人だろうか(と、思ってたら、早速今朝見ることができた)。政界ノンフィクション、だろうか。政治物の読み物とはあまり縁がない。昔、『劇画・小説吉田学校』(劇画か小説かで言えば劇画ISBN-13:978-4062563611)を読んだくらいだったろうか。
 さて、この手の読み物、俺はまず疑問に直面してしまう。たとえば冒頭に出てくる電話の話。電話の内容って、本人にしかわかんないじゃん、って。誤解の無いように言うが、真偽を問うているのではなく、その真偽にいたる前段階、「この本って誰の視点で書かれてるの?」的な、「どういう建前になってるの?」的な疑問。そこらあたりがよくわからん。『小説吉田学校』は「小説」と銘打ってくれているが、この本には「敬称略」とあるだけで、「本書に登場する人物・団体名は〜」ではない。もちろん、「情報元の○○さんによれば」を明かさなきゃいけないとすれば、こういう本が無くなってしまうのでそれは面白くないだろうが……。
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 とか、思って読み始めたが、まああんまり関係なかった。ともかく、安倍政権ができて、参院選惨敗までのおさらいの本として、たいへん読みやすい、わかりやすい。おまけに、頭の中が小説吉田学校で止まってる(うそ)人間にとっては、「へえ、あの政治家ってそういう経歴なんだ」的な勉強になる。あるいは、「あの政治家とこの政治家は盟友なんだ」とか。むろん、真偽のところはわからん。わからんけれども、一応そういう線を押さえておけば、バラバラのものがとりあえず一つ繋がる。その繋がりを知った上で何かあれば、その繋がり自体がおかしかったのか、変化したのか、まあ、一点の視点をもてる。とっかかりってのはそういうものだろう。別に政治ウォッチャーになるつもりもないけれど。

安倍晋太郎という父親の元、長男の森、次男の小泉、三男の中川、そして四男の晋三という4兄弟がいる。父亡き後、長男の言いつけを守り、変わり者の次男をかばい、末っ子を可愛がる、気遣いの優しい三男が中川だと考えてください。『清和4兄弟』と考えれば、中川の行動と役割のすべてに説明がつきます」

 たとえばこれは、中川(女)もとい中川秀直の「近親者」の話として出てきているもの。この「4兄弟」の図式が正しいのかどうかわからん。でも、今朝のワイドショーなんかを見て、麻生太郎が「他にも安倍辞任を知っている人がいた」という話で、中川→森ラインが出てくる理由もなんとなくわかろうというもの。いや、俺、ほんとそのあたり全然知らなかったものだから。
 そうだ、今話題の麻生太郎についても出てくる。はじめは幹事長に据えようとしたこと、そして、末期には「心の拠り所」として、一緒にいると「何か落ち着くんだよな」と、執務室で密会を……って変な表現か、まあ、そういうラブラブっぷりが描かれていたりするんだよな。まあこの本、続投決定の後あたりに出たものだから、その先は無いけれど。いや、しかし、『官邸崩壊』って出たあと、改造内閣が予期せぬ人気急上昇とかしなくてよかったね。賭けに勝ったというところか、オッズは低そうだけど、払戻金は大きそうだ。
 そうだ、メーンテーマは『官邸崩壊』だった。戦犯の一人として指摘されている井上秘書官、あるいは、本書でやり玉にあげられている世耕弘成、その他チーム安倍の面々。理念優先で適材適所とは言い難い人事。「まあ、そんな感じだったんだろうな」と飲み込んでしまえるような指摘の数々が出てきて、ちょっと意地悪な気持ちで楽しめてしまうところもある。
 そんで、一番の肝というかなんというか、安倍に対する一番の影響という意味で、ちょっと過大評価されているんじゃないかくらいに思えるのが、小泉純一郎の存在。でも、これが小説かなんかだったら、安倍晋太郎が総理の椅子を逃した直後、静かになる会合で若き小泉純一郎が取った行動とは……、そして、その場に居合わせる安倍晋三……、このあたりクライマックスとして、いくらでも盛り上げられる。それにまあ、良かれ悪しかれ小泉人気は異常だった。本物だった。藤沢駅前が今後あんだけの人で埋め尽くされることなんて、ないんじゃないかって思ったもの(撮影は2003年10月31日)。