『アカイイト』

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 突発性ギャルゲーやりたい症候群を発症。安く入手できて、なおかつ面白そうなものはないかと物色。たどりついたのがこれである。2,000円以下で買えた。生涯におけるギャルゲー五本目、くらい。
 それでこれ、予想以上によい買い物だった。ゲームとしては単に選択肢を選ぶだけで楽ちん。あとは和風伝奇ストーリーを楽しめばいいだけ。なんかコマンド自由選択するようなのは面倒で嫌です。
 で、このストーリーがよくできている。ゲーム内時間はたった数日ながら、その舞台に至るバックストーリーがかなり広く、綿密に存在していて、進行とともにちらちらと明かされていく。そして、プレイを重ねるごとにそれら断片が実に細かいところまでしっかりと絡み合っていることが知れて、これがなかなかのもの。このゲームには32のエンディングと5つのトゥルーエンドがあって、ゲーム内リアル進行と結末は異なりながらも、ベースとなる部分、舞台設定でおそらく矛盾はなく、一つの物語を多角的に見ていく、ということになる。ほとんどこういうゲームはプレイしたことなかったが、これはたいしたものだ。これは、ゲームならではの表現ではないだろうか。
 たとえば小説、俺が読んだ数少ない和風伝奇ものといえば山田風太郎の何かとか、石川淳の『至福千年』(このジャンルでいいのか? 面白かったから、いいだろう!)とか半村良の『産霊山秘録』(オハシラサマならぬ、オシラサマって出てきたっけ)あたり。はっきり言って、ストーリーそのものの深さ、えぐさ、面白さでは、それらの方が……桁違いかもしれない。が、しかし、ゲームならではの見せ方、関わり方を活かし、いつまでも浸っていたい伝奇雰囲気を体験できるという点において、それらと並べてみてもいいくらいの誘惑にかられる。一つのできごとをいろいろな人物の視点で描くような小説は数あれど、一人の主人公が多元的な同一時間軸を、しょうもない終わり方も含めて無限に繰り返される悪夢のように体験するような小説は寡聞にして知らない。グレッグ・イーガンの『宇宙消失』などがチラッと浮かぶが……、いや、なんかあるかな。まあ、思い出せないからいいや。もしそんな実験小説あっても、きっと読みにくいだろう。
 ……などとなんか大仰に振りかぶってみたが、じゃあギャルゲーとしてはどうなの? 百合ゲーとしてはどうなの? と問われれば、口元を弛めた、決して人様には見せられない顔でプレイしていたと告白しよう。吸血シーンやイベントシーンでなく、立ち姿の烏月さんが好き! あと、ミカゲの片目隠したやつ。
 それと、ゲームのシステム面とかその辺、そのあたりは実によくできていた。分岐図が見られるなんてのは、プレイ前は余計なことかと思っていたが、これが邪魔にならないどころかおおいに重宝。レビューでよく言及されている用語解説も飽きさせない。つねづね日本神話に弱いと思っていた俺は、ついつい古本で『古事記』についての本を注文してしまった。あとは、カーソル移動音や決定音もすばらしく、音楽もいい。これがいったいこの手のゲーム界でどのように位置づけられているのか、忘れられているのかはわからないが、これクラスが楽しめるのならばこの方面掘り進んでいってもいいように思える。あと、半村良方面はもっと行ってみようっと。

 ……とか、思ってたら、なんだ『アオイシロ』って。姉妹作? 前は盆地で今度は海? 正直言って欲しい……が、7000円台というのは二の足、三の足を踏む。とりあえずは見て見ぬふりをしておこうっと。

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