この世の栄光の終わりとワールズエンド・スーパーノヴァ、あるいは「私が神様だったら、こんな世界は創らない」

 「新しい詰め物を作るのに、少し形を整えますよ。神経は取ってありますから、痛くないですよ」と、先生がおっしゃるのですが、私には、私には、この哀れな口内右下奥歯、「神経は取っておきましょう」というお話しになったのではありませんでしたか。ああ、しかし、しかし、先生が私の恥ずかしいところをご覧になって、今そうおっしゃるのなら、ああ、神様、神経、死刑、執行。
 あが、あががががが、いたいですよ、キューン、キューン、キュイーン、いたいですよ、ちょっといたいですよ、あなた、神経あるよ、神経、太陽神経叢、こ、声に出さなければ。
「ァガッ!」(私の右下の奥歯の歯にはまだ神経があるんじゃないでしょうか)
 「歯茎に近いから、ちょっと痛むかもしれませんねぇ」
 キューン、キューン、キューン、キューン。
「ゥグッ」(いや、この痛みは神経があることによるものであると思うのですが。先生、なにとぞ慎重にお願いします)
 (歯科助手に向かって)「ちょっと舌押さえて」
 「……!」
 ……、……。責め苦から解放されたよろめかない人妻でない、俺、汗だらけ、ぼくら笑わずに汗だらけ。失禁二リットル。うそだ、笑うな。人の歯医者を笑うな。助手の方、見るに見かねて、「汗、おふきくださいまし」と差し出したハンケチならぬティッシュペーパー一枚。ティッシュ・ミー、アマデウス。汗を拭いて握りしめるティッシュの頼もしさ。型どり、沁みる液塗らないでくださいまし。ああ、次の予約一週間後、ビルから一歩出たこの関内砂漠東西南北、私はもう帰る方向すらわからぬ迷い鳥。心神耗弱。私が神様だったら、こんな世界は創らない。私には帰る家もなく、体を差し出してなぐさめてくれる女もいない。暗雲は途切れることなく立ちこめ、私は神を見た。傍らにはエリヤがいた。セルテの前だったと思う。