『TATOO<刺青>あり』/監督:高橋伴明

TATTOO「刺青」あり [DVD]
▽ちょうど俺が生まれた年くらいに起こった、実際の立て籠もり事件をベースにした映画。それしか知らなかったので、てっきり立て籠もり系映画(?)と思っていたが、そうではなかった。犯人の人生を追う形で描かれる。

▽主人公の宇崎竜童がまずよかった。どうにもしようのない犯人の、しょうもないと言ったらそれまでの、そうでありながら何とも言えぬざらりとした感触を残す、そんな人生になりきっていた。無力ゆえに力をもとめ、無知ゆえに知識をもとめ、貧ゆえに豊かさを求め、またそれを得たようなそぶりを見せながら、その実得られていないところに横たわる大きな溝の、その埋め方の圧倒的な間違いっぷりというか。
▽その虚像と実像の象徴みたいなのが、タイトルの刺青ってことになるか。自分を強く、大きく見せようという。でも、こいつ少年法ぎりぎりのときに強盗殺人やってんだよな。その殺人の重荷をいっさい感じさせない、前科に対して屈託がないあたりは、やはり狂気というか、サイコパス的なキャラといえるか。
▽となると、自ら刺青の竜の口の先に油性マジックで炎を書いたシーンの意味深さよ。
関根恵子は美しすぎる。この映画を元に監督と結婚ってのは、そりゃあ反則じゃねえのかとか思った。何の反則だか知らないが。
▽今で言えば、ドメスティック・バイオレンスとか、共依存とか、そういう関係だろうか。でも、共依存でもないか。チキンラーメンのシーンはすげえなあ。
▽ハードボイルドもの、犯罪ものに傾倒していく主人公が本屋(店主がすっとぼけた原田芳雄)を訪れるシーンがあった。いいなあ、二十年くらい前の本屋の本棚。関係ないところで、じっくり背表紙が見たいとか思った。誰か、いま、この時の本屋の本棚の背表紙を記録している人がいるだろうか。いてほしい。
▽母子の物語というのが一つの軸で。説得に行く前パーマをあてて、ヘリの風を嫌がるあたりが、後から効いてくる。あと、おもちゃのようなヘリがよかった。
▽スタッフに周防正行の名。あと、下元史朗とか趙方豪とか大杉漣とかここのところいくつか観たピンク映画の面々。
▽途中、植木等のコント仕立てや西川のりお・上方よしおの漫才が入っていたりと、暗いトーンながらサービス精神があるというか、もちろん濡れ場もよかったんだけど。