「米国のみんな、米国に神のご加護を」、あるいはヴォネガット時代の到来について

オバマ氏に背丈や肌の色が似ていることから選ばれたデリック・ブルックス陸軍軍曹(26)が右手を挙げて「宣誓」した。就任演説は「米国のみんな、米国に神のご加護を」の一言で済ませたが、オバマ氏の2人の娘マリアとサーシャに似ている子役まで登場し、本番さながらの議事進行となった。

http://www.asahi.com/international/update/0112/TKY200901120199.html


 その日、デリック・ブルックス陸軍軍曹は「米国のみんな、米国に神のご加護を」と言った。ピース。
 俺は、このサージェント・ブルックスが、カート・ヴォネガットの読者だったらいいなと思った。大統領就任演説をする黒人初の大統領の代役をつとめながら、「あれ、俺なんかヴォネガットの小説の主人公みてえじゃねえか?」とか考えてたら面白いのにって思った。「俺はこれこれの生まれでこういう風に育って軍人になった。オバマはああ生まれてああ育って黒人初の大統領になる。その対比が描かれて、俺が奇妙なヘマをやらかして人生がおおきく変わって、キルゴア・トラウトが出てくる。アメリカ社会の持つ富や差別の問題が描かれ、薄ら寒さと希望がそこにはある。その他いろいろ。……俺はいま、その主人公じゃねえのか」と。
 まあ、たぶんそんなことはないだろう。いや、あるかもしれない。やっぱりないかな。アメリカ陸軍の黒人軍曹はカート・ヴォネガットの夢を見るかどうか、俺にはわからない。ただ、俺にはそう思えたんだ。
 あと、俺は最近、今はヴォネガットの時代になりつつあるんじゃないかと思う。この日本。俺は、フィリップ・K・ディックの時代かウィリアム・ギブスンの時代が来ると思っていたけど、むしろヴォネガットだ。人間の連帯と、富の配分の問題と、奇妙な人生について問われている。人生にご用心。だから、もう一度、そのあたりについて見直してみる必要があるんじゃねえかと思う。見たことのない人はぜひ見るべきだと思う。ピース。

このあたり______________________
『ジェイルバード』の感想文
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