まったく最高の場所

磯子の湾岸工業地区に迷い込む。道は広い。車は通らない。巨大な工場が低い音を、高い音を途切れなく響かせる。目が慣れてくる。そこで気づく。人がいる。少なからぬ人がいる。互い互いに距離をとり、無言で、工場の光を鈍く映す水面に向かい、釣り糸を垂れている。ここは夜釣りの場だったのだ。なんと、こんなに、くそったれ素晴らしいところが、この世に存在していたか。そんな感慨にひたっていると、目の前に赤く光る何か。左ペダルに異物感、ブレーキ。停車。なんと、釣り人のおっさんの糸が、俺の自転車に絡まったのだ。駆け寄るおっさん、無言。俺、無言。なぜか言葉が出ない。この事故はどっちが悪いのかね。まあ、そんなことどうでもいいか。こんどはおにぎりでも持ってこよう。俺は釣りをしない。でも、この中にまぎれて、工場の光、海の闇、夜明けまで見ていたって飽きることはない。