フェブラリーステークス展望

 明日は二月二十二日という節目の日であって世間的には猫の日であって竹島の日であって大魔神佐々木の誕生日であって、河内洋の誕生日なのであるが、2という数字に着目すれば2というのはいかにもなかなかスマートな感じのする数字というのは否めないやつ。0は神秘性が強すぎるし(ブラックホール)、1はエースやリーダー。となると、2は長身長髮のきざな奴、というところに落ちつきたい。
 が、お前、野球を考えろ、2はキャッチャーの居座る数字、キャッチャーと言えば左門豊作であって、鈍重なデブなのに恋女房などと古くから日本野球界がやおいポジションとして固定し続けてきた妄想の地獄(広島の場合、鯉女房などといって生臭くすらある)。お前はむしろカレーを食うタイプか、カレーのにおいのするキスってどんな味がするんだ? 鯉の味? うすよごれたお前の性欲。たたき潰せ、石でたたき潰せ! この欲望! 生臭い! 欲望! 
 青春は死んだんだ。出馬表を見てみよう(俺はきざだから、これを「でんまひょう」と読んでいることは内緒なんだよ。なんだよ、覗くなよ。誰だよ、お前、これ打ってるお前誰だよ?)。

 まずレース名から考える。フェブラリー。フェブラリーといえば2月だ。2に着目するのは王道だ。王道があらわれた。王の道。いま、この草原の真ん中に一本果てしなくつづく土の道……、土、ダート、砂。王の道こそは砂の道であり、すべてはフェブラリーステークスに帰結する。フェブラリーステークスフェブラリーステークスに帰結してこその王道なのであると、王は言う。老いた王。虚ろな目。皺だらけの陰嚢。やつれた指輪の宝石だけは曇らない。宝石の色は何色がいい? 深紅だ、深紅の宝石がいい。
 ヴァーミリアン。ヴァー、ミリアン。ミリアン? ミリアム、ミランダ、ミランダ条項、ミーガン法。法の執行、あのとき、あの頭の白いあいつ、ボブ・バファートはOfficerをしてニュー・ヒーローだ! って叫んだんだ。バーバロとバルバロ。二頭のミスターシービー、二頭のヒシマサル、いいぞ、2が絡んできた。1は絡まれない、棒だから、3はバネのように弾む、ただ、2は絡まる絡まって卍になる。ここに鍵がある。卍だ。
 卍は即ちルメールである。ルメールを分解し、割れた地の底に放り込め、巨大化して知性を失い、また巨大化した敵に屠られる、お前は日曜朝の供物、ほら、卍になった! ひとしきりカネヒキリ、ひと―しきり、カネーヒキリ。人はしきりに、金はひきりに。
 しかし、カネヒキリはもうやりすぎた。勝ちすぎたんだ。そこが怖い。栄光は絶対に同じ量の闇を含む。世界は一点からはじまり、一点のまま複雑な陰と陽をからめからめて、この形や色をいったんなしているふりをしているだけにすぎず、そもそも総量は一であり、一は全であり、たまたま現れたさいころの目にすぎないのが、この目の見る世界、世界と目、目と世界もその一点であることについて対象も被対象もないのだと、俺は言っている。王は奴隷、奴隷は王。道化師は反道化師であって、道と化す。王の道だ。王の道の裏側には奴隷の血が染み込んでいる。見せかけの幸福の見えないところを覗こうとするんじゃない。いや、覗くのが競馬なれば……。煩悶、門の中の心、火の頁。心に薔薇、背中に火、カチカチ山。唇に火の酒、薔薇一族。火の酒。唇に火の先。バチカンの栄光。栄光と失墜! 中川よ! 酒よ! 中川(酒)よ!
 サンライズバッカスバッカス、酒の神。栄光と失墜、上昇と下降。父はヘネシー、母はリアルサファイアサファイアは深紅に対応する。照応する。失墜する王、王の代わりの上昇。上昇と下降。下降と上昇。卍の回る、陰陽の相見える結合、世界は戻りゆく。いった先の2は1となる。古き栄光にまたがって、新しい栄光を、新しい世界、新しい三浦皇成。三番、三浦、サンライズ
 サン、太陽、サン、太陽、サンサンとサンサンと、愛、サンサンとスプライトパッサー、メイワパッサー、パッシングショット。ショット・ザ・石川遼。あたらしい世界、日の出。夢を見る。こどもたちの夢を見る。こどもたちは夢を見る。胎児はもう踊らない。バンカーから打ち上げられて、グリーンに打ち上げられるお前の胎児。見上げると太陽。一面の太陽。

 なぜに昔からの賢者は、大人は子供心を持てということを教えたのか。そうして自分らも、それを尤もと受け入れているのか。エデンの楽園で、イノセントな生活、善悪などを区別しない生活をおくっていたのを、いまさらなぜに恋しがるのか。
鈴木大拙「東洋‘哲学’について」1961

 サンサンと、サンサンと、馬券はサンライズバッカスの三着を思う。七歳馬には不向きなレース。カジノドライヴサクセスブロッケン、あたらしい日々。私の夢。インカム、インコム、ファンネル、ビット。あらゆる方向から俺を守り、俺を攻撃する網の中の破れ目、破れ目がひろがってすべてが破れて俺は球になる。無垢。無垢、無垢。世界の原初。俺は世界の原初だ。俺はなぜこの無垢を捨てたのだ。俺が光あれといったとき、なにが光で何が闇だったのか。矛盾が最初にあった。矛盾が歯車を回転させて、やむことがない。矛盾が矛盾を生む。有と無さえ産む。産土神。おんめ様。おんめ様の怖さは、歯車の怖さ。
 猫は無自覚の生を意味する。竹島は言語の分断を意味する。大魔神佐々木は物質の力を意味し、河内は人馬一体を意味する。この中の真の2は言うまでもなく河内の2である。二つにして一つ。むかし、南泉は猫を斬って二つにして一つにしようとしたが、それは無であった。有なる歯車の河内の風車鞭。無知を恥じるな、無恥を知れ。ここに競馬の競馬たる矛盾の動きがある。この動きの大道を掴んでこそ、われわれは馬券に打ち勝ち、自己に克つ。確固たる克己。国家、克己、刻苦、国庫。恍惚の国庫。燃える札束、あらゆる硬貨はいまや高炉に投げ込まれ、それを肴に一杯の酒、高炉の中を泳ぐ魚、二月の星座は魚、魚類、鯉の類。俺は鯉の類、あらゆる抑圧と春のあたたかさを嫌おう。フェブラリー、二月に釘付けになって、さらされて、それでも泳ぎ続ける魚。
 供えるがいい、犧牲者に供物、虚無、黒い死、国士舘国士舘の闘士。右側から現れた闘士。河野―三浦皇成の皇統を思え。やはりサンライズバッカス、太陽神。太陽神。ひからびた魚の太陽神、太陽神に的中馬券を捧げるがいい。かしこいやつは反省しろ、馬鹿なやつは踊りつづけろ。ひからびた魚、二月の終わり。鳩が今飛び立って、岬の先に消えた。