サルバトーレ・サンペリ死せども『青い体験』は死なず

 サルバトーレ・サンペリさん(イタリアの映画監督)ANSA通信によると、4日、死去。64歳。死因は明らかになっていない。
 44年、イタリア北部パドバ生まれ。母の死後、家政婦としてやってきた年上の女性と思春期の少年との関係を描いた「青い体験」(73年)、「続・青い体験」(75年)のほか「スキャンダル」(76年)など官能的な作品で知られている。(ローマ)

http://www.asahi.com/obituaries/update/0306/TKY200903060042.html

 深夜、テレビで見た、途中から見た、小さなテレビで見た、あの、イタリアの、ポルノの……! もう言葉が続かん。いや、追憶と羞恥の殼を打ち破り、俺の青い炎を、いままた目前に……! そうだ、あの、あの、あの、おおお、言葉にならん。とくに、とくに、だ、落ちたフォーク、あるいはスプーン、それともナイフ、ナイフ、食卓の下、テーブルクロスの下の……! もう、その、あの、中学生の俺の、脳裡にまさに脳裡、脳裡の走馬燈八角の磨盤空裏を走る、あのエロス、俺の脳裡を走り続ける。走り出せ、あの衝撃、記憶に留めろ、脳髄!
 しかし、失意の記憶も、ひもとく。あらためて、また五年後か、そのくらい、俺は、ネットであの日の映画のタイトルを知り、レンタルビデオ屋にそれを求め、それを得た。『青い体験』。だが、違うんだ、これだけど、これじゃないんだ。……俺の脳裡を走り続けた、極度に肥大化し、俺の脳みそを完全に支配した、あのエロは、そこにはなかった。俺は、人間の脳の、秘密を知った。俺の脳の、秘密を、いや、秘密はわからない。ただ、機能を、寂しい人間の機能を知った……!
 だが、だが、それでいいのだ。俺の中で、サルバトーレ・サンペリの『青い体験』は死んだ。死んで久しい。だけれど、俺はサルバトーレ・サンペリの『青い体験』を殺したから、俺は殺したから、俺は永遠に、『青い体験』とともにある。これとともに、俺があるかぎり、俺の脳裡には八角の磨盤、『青い体験』が走り続ける。さらばサルバトーレ・サンペリ、その名を、俺は今知った、今知ったが、あえてこう呼ばせてくれ、師よ! さらば!

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