本の取り扱いについて

 全国一の貸出冊数をほこる大阪市立中央図書館(西区)で、年間2千冊近い本や雑誌が、借り主に切り抜かれたり破られたりして廃棄されている。

http://www.asahi.com/national/update/0425/OSK200904250065.html

 俺は、図書館は利用したことがないから(「本は買え」という父の教育による。超金持ち)、図書館の話はしない。本の取り扱いの話をしたい。
 大学受験のための予備校だった。国語の講師だったろうか、ともかく蔵書がたまってたまって、置き場がなくて大変だという話をした。ただ、その講師には整理のための必殺技があるという。必要なところ以外はぶった切って捨ててしまうのだ、という。
 俺には、にわかに信じられない話だった。そんなのありかよ? と思った。ひょっとしたら、その先に必要になるかもしれないじゃないか。というか、本を必要度で分解しちゃっていいのかよ? と。まあ、たぶん、文芸書などではなく、研究書とか、資料的なものなのだろうけれども。
 まあともかく、今の俺も、「本は分解しちゃいかんだろ」と、まあだいたい、そういう思いだ。だけれども、またいずれ、変わるかもしれない。俺も、信条において変わったところがある。それは、本に線を引くか引かないか、だ。
 けっこう最近までの俺は、本に線を引かなかった。引いちゃいけないと思っていた。なんというか、その一冊の本という、一つの完成品に、俺みたいのが、線引くわけにはいかねえな、と。教科書や、参考書、辞書なんかだったらいいんだ。でも、どうも、たとえば、その本をまさに読んでいる俺が「重要かも」なんて思ったことなんて、読み進めていったら、ぜんぜん当て外れかもしれないじゃん。それを、後から見返したら、嫌だな、と。
 あと、人が線を引いた本も嫌いだった。まあ、父の本など読んでいて、なんか線が引いてあると無性に腹が立つ。古本を買って、誰かの線があると、読む気をなくす。そんな性格だった。
 が、いつからかわからんが、自分で本に線を引くようになった。やっぱり、後から見返したりするとき、「あれ、あの部分」というのが、ぼんやりとした「右ページの端っこだったな」というだけでは、もう思い出せない。老化かもしれない。ともかく、ちょっとチェックがあればいい。いいと思うんだ。
 そうすると、不思議なことに、他人の線も、なんだかまあ、あんまり買いたくはないが、あったらあったでしかたないか、と思えるようになった。
 まあ、そう思えたのは、最近読んだ一冊。『親鸞の世界 (1972年)』。これ、古本屋で見つけた。浄土真宗からは金子大栄、曽我量深、そのアウェイに乗り込むのは鈴木大拙、司会は‘京都学派四天王’の一人(京都学派がなんなのか知らないけど、肩書きがかっこよかったので)である西谷啓治という対談集的なもので、その内容のエキサイティングっぷりというか、ガチンコのやりとりはもう読んでいて超おもしろくて、筆舌に尽くしがたいから書いてないんだけれども、まあっその本、その本にラインがあった。
 で、その前の持ち主のやつ、どうも浄土真宗系の人みたいなんよ。俺は、まあ別に信仰心もないけれども、一応は鈴木大拙のものを読んで、感銘を受けて仏教に興味を持ったところもあるので、大拙よりで読んでいる。そうすると、なんか、浄土真宗ラインが、最初は気になったわけ。「なんか細かい話拾ってるな」みてえな。もっと、ここんところで、寝ぼけた感じで大拙が斬り込んだところ注目しろよ、みてえな。
 でもね、だんだんね、前の持ち主の、大拙発言へのラインが増えていくの。あれ、お前、そこんところ気になってきたの。いやあ、奇遇だね。でも、俺もこっちのね、大栄先生の方もいいこと言ってると思うよ、みたいな。友情だよね。線もいいよね。
 ……でもだ、でも、やっぱり俺、小説には線が引けない。これはよくわからんが、無理だ。やっちゃいけない、と思う。なんか、たとえば、美術館で絵を見て、「ここんところの花の色がいい」とか言って赤ペンで○したりしたら、なんか連行されるでしょ。それと似たようなイメージ。
 ただ、なかには問題になるような本もあるよね。実用書ともエッセイとも小説とも詩ともつかないような、そんな領域。そうなると、そこんところで、俺が、ある意味、世界、言葉の世界を二分しているものの、際にふれるような、そんな気になる。たとえば、こないだ読んだ『天体による永遠』ルイ・オーギュスト・ブランキ - 関内関外日記(跡地)は、これ、線ひけなかった。そのあたり。そこんところの、自分内リトマス紙はおもしろいと、ちょっと思うのでした、おしまい。

 ……と、書くきっかけになった、図書館の本。そりゃあもう、線引いたり、切り抜いたり、かじったりしちゃだめでしょ。かじりたかったら、てめえで買う、と。

後日追記______________________

普通なら嫌われる傷本だが、手にとって見つめるうちに、元の持ち主が目に浮かんできて楽しくなる。確かに痕跡本は面白い。

http://www.asahi.com/culture/update/0505/NGY200905040019.html

 ふーむ。