2009.4.29の自転車(1/2)多摩川サイクリングロード〜浮島

横浜〜多摩川サイクリングロード

 日の出とともに起きて……とはいかないが7時半ころに目がさめる。9時45分ころアパートを出る。ちょっと遠くに行くつもりになっていたので、あれやこれやと装備、荷物、重くなる俺のすばらしいドイタートランスアルパイン
 今日の目的は、市外だ。俺はまだ、横浜市を出たことがないのだ。あわよくば、県外への脱出もしたい。目標はとりあえず50km。
 ちなみに、北行きを考えたのは、ぼんやりと多摩川あたりのことがあったから。もちろん、こちらの記事の影響で。でも、県外となると、北が第一選択候補にならざるをえないか。神奈川県の形め、バランスはいいくせに!

 というわけで、第二京浜を北上して、いきなり多摩川。いや、途中、「上はサイクリング風だけど、下がジーンズなのはよくない」などと思って、ホームセンターなどに寄ったりしたのだけれど。ちなみに、そこは作業着ばっかりで、安売りジャージの類はなかった。
 それはそうと、サイクリングロードというのははじめて。休日だし、ピナレロコルナゴみたいな人から、自転車乗り始めたばかり子、ママチャリのサイクリング夫婦だとか、あとはランナーも多い。

 地図で川沿いに「小向競馬練習場」の文字を見つける。南関競馬愛好者としては、遠くからでもいいから見ておきたい。いったん、ガス橋の方までのろのろとサイクリングロード走って折り返し。途中、未舗装路や駐車車両などあって、ちょっと迂回したりして大変。

 ここが小向か。というか、平気で入れる。看板にも、早朝の調教時間以外は自由に、みてえな。

  ああ、いいなあ。ダートだ、ダートなんだ。馬の蹄のあと。降り注ぐ太陽。おい、ここで草競馬やろうよ!砂、深いなあ。深いから歩きにくい。遠くに見える、発馬機の方まで行こうかと思うが、この深さの中を歩くのはいやだ。
 ここで、ソイジョイを一本食う。まだ腹は減っていなかった。出発してすぐに買ったペットボトルの水も、まだ半分くらいある。俺は日常生活でかなり水分補給のはげしい人間なので、これは意外だ。それとも、小学生のころ、水分補給不可の遠足で鍛えられたせいだろうか。

 ああ、いいや、小向。向かいには厩舎。ちょうど馬運車が出るのも見た。ひょっとすると、早朝に来たら、馬の調教も見られるんだろうか。いや、しかしそれはやっぱり無理か。部外者が紛れ込むと問題がある。まあ、いいや、この、そこらにボロの落ちている、小向、河川敷、早朝、朝もや、朝日、馬たちの駆ける足音、いいなあ。

多摩川沿いを下る

 小向の次はどこへ行こう? とくに目的はない。と、サイクリングロードに「海から10km」みたいな標識を見つける。海、いいなあ。地図を見ると、羽田とかの方へ行けるみたい。どこまで海に近接できるかわからないけれども、川とともに下ろう、そう思う。
 川沿いの道というのは……ぐわっと開けているようなところもあって、柵なんかもなくて、なんというかえらい開放感だった。スピードを出そうという気にもなれず、老夫婦のサイクリングのうしろ、間をとってゆっくりと行く。

 途中、道が途切れたり、市街地に入ったり、オーケーで昼飯を買ったり、用を足したりして、また南下。そろそろどっかで飯食いたいと思いながらも、なんかどっかが見つからない。ベンチとかなかったり、あっても先客がいたり。あと、味の素の工場かな、なんかここで飯を食う気はしない、というにおいがしたり。
 写真はこれ、なんか近代建築遺産とかなんとかいう、水門だな。直近に住む人もいて人気スポットだった。

 けっこう南下して、ようやく昼飯。街区公園のような芝生広場があり、そこにビニール袋敷いて座る。こういうときのために、東スポでも持ってくればよかった。
 しかし、この弁当が299円だぜ。種類も豊富だった。もちろん、最近の低価格弁当競争の流れもあるだろうが、オーケーというのはもとからこのくらいの風速を出していたスーパーでもある。
 ……などと、この景色と似合わぬことを考えていてもつまらない。たとえば、あの河川敷の背の高いくさむら……『洗濯屋ケンちゃん』とか思いだすよな。

 自転車。なんとなく、自転車があると、まあこんなところで一人というのも、説得力があるというか、説明がつくというか、そういうところがある。
 しかし、地味だな。Giant Escape R2 2008。行ったらあった。安かったし買った。次バージョンに比べるとよいところもあるらしいし、まあ初めてのそれなり自転車として、なんら不満はない。いや、でも地味だな。ピナレロコルナゴ(この二つをあげてるのは、なんとなく語感が好みなだけです。どんなものかはよく知らない。ロードバイクの意味と思ってください)みたいに派手すぎてもなんだが、これは地味だ。そうだ、たとえば、タイヤとか白かったりしたらいいんじゃねえか? などと思う。俺は、基本的に悪趣味だ。

 さて、飯も食ったし南下しようかと思うと、なにやらあやしげなシルエット。川沿い、さわやかな芝生、新しいマンション、そこに似つかわしくないお前はなに? なにもの? なに建築? なに教? まあとくにあてのない旅、終着点が出家でもいいかと思い、そっちに行くことにした……。

浮島!

 なぞの建築は「川崎大師自動車交通安全祈祷殿」だった。なんだ、川崎か。そうか、川崎大師の近くか。なんというか、土地鑑があるといえばある。つーか、もうそこ行けば川崎競馬場じゃないか。たしか今日は浦和開催。昭和の日特別とかやってるはず(祝日だから重賞はないかと、前日確認していた)。せっかく小向にも行ったし、馬のいない川崎に、場外発売でも買いに行くか? あの感じは嫌いじゃない。
 などと、安全祈祷殿の中からかすかに聞こえる声明に心を泳がせつつ考えたりする。が、地図を見ればなんか埋め立て地に一直線の道。ここは立ち入っていいのか? 先っぽには公園もあるし、途中にヨドバシカメラもある(あとから通り過ぎてみれば、アッセンブリーセンター、物流基地だった)。と、俺はそちらに向かって漕ぎだした。まだ体力にも余裕がある。このペースなら、もう50kmはかたい。
 そして、ああ、埋め立て地、工業団地……! なんだけれども、その前に、そこにいたる街並みというのが、なかなかよかった。こう、古い工業団地と、たぶん、そこに勤める人たちが住む街、住宅街。起伏のない。コンビニとか、ラーメン屋とかもある。あるけれど、だんだん、生活が消えていって、どかーんと、直線、高速の下、左右に工場、倉庫……!

 ああ、工場いいなあ。誰がこんなものを建てたのだろう。この埋め立て地、人工、直線、無機質の有機。日本中がこんなんだったら、どんなにいいだろう。自然とかいらねー。

 なんというか、こういうところなら、働いてもいいという気になる。大きな職場だ。いや、たとえ、広大な敷地の片隅の、いちばん小さな小屋だっていいんだ。この大きさを相手にね、働くというのが、いや、実際の作業が小さいとしても、しかし、この空間というものだ。

 そして、埋め立て地の果ての浮島町公園! ここがどれだけすばらしい公園かというと、説明しがたいくらいだ。ひっきりなしに対岸の羽田空港から飛び立つジャンボ・ジェット。ジャンボ・ジェットの角度! 海、遠く見える巨大工事! ああ、今度は、もっと遠くの撮れるカメラを持ってこよう。羽田空港そのものも脳の何かの汁が出てとまらないが、この公園はいい。なんか、押井守とか、藤原新也の気分だ! 

  浮島町公園の釣り場! ここもすばらしい。というか、なぜ釣り人たちのかもしだす雰囲気というのは、雰囲気というのは、地方競馬場の客のかもしだすそれに似ているのだろう! 磯子の、港湾の、夜釣りの人たちにも同じものを感じたが、しかし、なんというか、これはただごとではない、そう思う。
 照りつける太陽、ひび割れたラジオの音楽、老妻に愚癡る老人、シュルシュルと奇妙な音を立てて放たれる仕掛け……。俺は、ひょっとしたら、釣りに向いているのかもしれない。だが、俺は、ミミズのようなものがだいの苦手だし、釣ったところで、魚の殺すのもわるいような気のするところがある。要するに、釣りは苦手だ。ただ、釣り人に混じって、ぼんやり一日過ごしてもいいような気はする……!
 あと、押井守だったら、こういうところでテロの相談とかしてるんだと思った。

 公園を出て、同じみちを引き返す。今度は、反対側だ。反対側の工場をよく見たいと思ったからだ。

 逆岸から見て、この造形を近くで見たいと思ったんだ。

 そして、この仕立て。ひょっとして、不景気で工場が止まっているから、作業員たちが植木の手入れをすることになり、そのおだやかならぬ心境がこのようなものに……、などと失礼な想像をする。

 ああ、よかった。この道、よかった。いいなあ、なんというか、埋め立て地だよ、サイバーパンクだ。なんかもう、日本中、こういう感じになってしまえばいいのに。みなとみらいとか、商業施設全部つぶれて、倉庫と工場と廃墟と公園になったら最高なのにな。
 ああ、なんかそういう世界を舞台にした恋愛小説とかねえのか。いや、俺は、恋愛小説が苦手だから、少年同士か少女同士がいい。ああ、俺も小説が書ければなあ!
 ところで、この写真の左のレールこそが神奈川臨海鉄道。これに触れないわけにはいかない……。

明日に続く。
当日編はこちら。