土曜日、鷹取山で大磨崖仏を見た帰りの話である。山の下の住宅街の方から、選挙カーの音が響いてくる。話題は選挙のことになる。私と同行者とて、有権者のひとりひとりである。ハイキングの最中とはいえ、国を憂い、思うところはある。私にだって政治に対して考えるところがある。
「……小泉のせがれとか、なんかムカつきますよね。あんなの××××××して、××、××になればいいのに。それに、あの髪形はなんだ。髪切れ、髪。政治家の正しい髪形ってのは、菅(すが)さんみたいなのでしょう。菅さんを見ならうべきだ」などなど。
そんなこんなで、京急田浦の方に抜けようとしたら、だんだんと道が細くなってくる。行けるようであり、行けないようであり。一応は、ボーイスカウトの設置した朽ちかけた案内板などもあり。まあ、まさか住宅街のすぐそばの山で遭難もあるまいと、「俺、ちょっと先行って様子見てきます」などと言って死亡フラグ、クモの巣やベトコンの罠を突っ切って斥候。
やっと抜け出て後ろをふり返れば、よくこんなところから出てきたなというあんばい。
人里に降りてきて、選挙看板。……なにこの人、ちょっと怖い。と、さっきから聞こえてきた選挙カーのアナウンスが近い。
ど、動画キター!(勝手に俺が撮ってるだけなんだけれども)
……というわけで、私はなんというか、どうしようかと思ってしまう。そりゃ小泉進次郎の選挙区をうろうろしていて、選挙期間中に本人に出くわすということもあるかもしれない。しかし、私はここの住民ではない。わざわざ横浜市中区からハイキングに来たのだ。今日、たまたまハイキングに来たのだ。そして、たまたま小泉進次郎の悪口を言い、たまたまよくわからない獣道のようなところを通って、たまたま抜け出た坂の上の住宅街から降りてきただけなのだ。そして、坂を降りきったら、小泉進次郎本人がいたのだ。
だからなんだ。偶然だ。偶然だけれども、私は京急田浦のホームに座り込んで、深く、沈み込むような気持ちになってしまうのだ。
私が、たとえばはてブで彼をディスろうとも、山の中で悪口を言おうとも、そんなのは全部おかまいなしだ。なにせ、いきなりそこにいるのだ。これは卑怯だ。吃驚だ。ああ、やはり彼は‘持っている’人間なのだろうか。何を持っている? 血筋でも名声でも富でもなく、あるいはそのすべてかもしれないが、何か持っているのだ。そうでなくては、このタイミングで私の前に現れることがあるだろうか。ライバルが新型インフルエンザに倒れたりするだろうか。代々、この地の地霊と縁を結んでいるのか。あのヘリコプターは、われわれの会話を傍受していたとでもいうのか。
私の言ってることに、なんの道理もない。無理筋だ。私の前に小泉進次郎が現れたからなんだというのだ。べつにそんなことは、私の身におきた、ちょっとした偶然でしかない。これが小泉進次郎になんらかの価値を付与したり、あるいは減じたりするわけではない。なんていうことはない、単なるすれ違いだ。しかし、私は見てしまったのである。これにはかなわない。くやしいが、白旗だ。負けた、と思った、ビクンビクン。
ええい、なんだ、しかし、こんなものはなんだ。ここからだ、ここから戦いははじまるのだ。今回は横粂さんも岩田さんも私も負けたが、しかし、いつの日か、よくわからないが、こんなものに、負けてたまるか。小泉進次郎だって、菅義偉のような髪形に、なる日が、来るかもしれない。それまで、私は、歩きつづけなければいけないのだ……! いや、どこに向かって歩くのかはわからないけれども。
ホンモノの“小泉チルドレン”は当選だ。小泉純一郎元首相(67)の次男で神奈川11区の自民新人、小泉進次郎氏(28)は父の議席を死守した。
http://www.sanspo.com/shakai/news/090831/sha0908310502003-n1.htm
あと、俺は単なるミーハーなので、ちょっと有名な本人と握手のひとつでもしようものなら、だいたい支持者になりかねないので注意が必要だと思った。