『人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白』を読んだんだけれども、どうも乗れなかった

人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白

人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白

 これはあんまりおもしろくなかった。しょうもない本、という気がした。だいたい、自分の生い立ちである金持ち自慢、父親自慢、さらには自分の才能自慢が鼻持ちならない。まあ、そのあたりは貧乏なクラリスのしけた嫉妬にすぎなんだけれども、だいたい、「人を殺すとはどういうことか」という本のタイトルに答えていない。むしろ、ムショの中の面々の紹介というところなんだけれども、その半分がヤクザで、そこで取りあげられているヤクザはみな任侠映画や漫画から出てきたようなすごい人物ばかりで、なんだかわからんがヤクザ讃美をさんざん読まされたような気になる。それだったら、俺は『静かなるドン』でも読んでいたい。
 いや、べつに書いてあることがいいなら、本人が成金だろうと、ビジネスの成功者だろうと、殺人犯だろうと、天才だろうといいし、ヤクザの中にすげえ人間がいるなんてのも、そりゃあそれでいいんだ。問題は、なんかつまんねーことだ。おもしろくない。どのあたり? というと難しいが、ともかくそうなんだ。
 なんだな、そうだな、たぶん、この著者は頭がいいとは思う。思うけれども、なんかこれみよがしにむつかしい言い回しをした文章からさ、深みが感じられないんだよ。人を殺すとかさ、その罪の贖いだとか、逆に贖わないだとかさ、そういうところにある、人間の魂に触れるような、コアなところ、ディープなところがねえんだ。この本からは感じられないんだ。
 そういう意味じゃ、本人が意気揚々と述べているように、裏表のない、嘘のない人物、なのかもしらん。そしてまた、自己の信念に基づく殺人とかも、本当に書いてある通りにやったことかもしらん。そして、精神鑑定した医師にすげえ興味を抱かれたってのもさ。
 ただ、俺はそんなにかしこくないから、この本を、精神科の医師のように読むっていうか、この囚人をひとりのサンプルとして見る、みてえな、そういうことはできないんだ。だから、なんとなく、「なーんかやっぱり、こういう腕っ節の強くて、成金で、成功志向のやつがビジネスとかで成功して、金持ちになるんだろうな」などと、無期懲役囚に対して嫉妬するというような、そんな変な事態になったりするんだよ。でも、ともかく、なんか、その、自分を客観視しようというところの記述があるが、なんというか、あまりにも、その、うーん、サラッと、理屈で通り過ぎたようにしか、見えないんだな。その、回心のような、一大転換が伝わってこないというか、別に反省してなきゃいけねえってわけじゃなくて、そこんところにひとつの「人を殺すとはどういうことか」ってあたりもあるんだろうし、なあ、と。
 そうだ、なんかこう、その、理知の上滑りというか、思考だけの滑走みてえなところで、深く刻まれるようななにかが感じられないんだ。もちろんね、これは小説じゃないしさ、芸術作品でもないさ。言葉や文章がまったく足りなくて伝わらないことや、逆に上手すぎて伝わらんこともあるだろうし、その後者かもしれないが、ともかく、一冊の本として提出されたこれについて抱く感想は、そのあたりなんだよ。ある種、狂気が足りない。その足りなさが、この殺人者の狂気であるといえば、そうなんだろうけれども。
 で、刑務所内のエピソード本としてはどうかというと、まあこれも予想外の話はないというか。刑務所の中も、結局シャバと変わらんしょうもない社会であるということや、殺人犯が「あんなので死ぬ方が悪い」とか「火に気づいてとっとと逃げれば俺がこんな目に遭わなかったのに」って言ってるというか、そういうやつばかりだとか、知的障害者がすごく多いだとか、真面目に反省しようとしている囚人が浮いてしまい、なんとなく悪に寛容な雰囲気に飲まれやすいだとか、残酷な犯罪者であっても、テレビのドキュメンタリに涙するとか、なんつーか、まあ、確認というか、いや、何冊本を読もうとも本当のことはわからんが、「長期の刑務所の中の描写においてはこれこれこういうことが述べられている」というところの、そういう意味での確認にはなったかな、というような。
 と、こんな風に読んだ本にいちゃもんつけるのは我ながら珍しいが、これは自分が金を出して買った本でなくて、俺の刑務所本好きを承知の父からまわってきたものなんだけれども、こんなん買うなんて耄碌したな、とか言いたくなったのだった。でも古本だった。おしまい。

↑これを書いた感想……悪口はすげえ書くの簡単で、もっと悪口ばっかり書くような日記にしようかと一瞬思った。でも、やっぱりさ、悪いことばっかり言ってると、悪くなっていくんだよ。だから俺、いっつも水に「ありがとう、ありがとう」って言ってて、すごいきれいな結晶ができたから、ちょっと鼻から吸いこんでみてら、三千世界に梅の花が開いた。あたしは捕まった、スイーツ(笑) やったー、刑務所行きー、みたいな話じゃなくて、そういえば今朝、横浜地裁かどっか行きの護送車のバンの運転手の人が女の人で、すげえ美人だったから、交差点で信号待ちの俺、体がツイストするまで目で追ってしまった。おしまい。

 あと、もう一点。この著者が言ってるんだけど、今の刑務所のままじゃ更生なんてならねえよって。下手すりゃ、余計悪くなって出て行くだけだって。そんで、この著者は、厳罰化っていうか、人殺しなら全員死刑、そうじゃなかったら、執行猶予付きの死刑(中国であるみたいだけど)、ってな提案してて。そんで、厳罰化っつーか、まあ、今の俺は死刑撤廃に気持ち傾いてるんだけど、今の状態じゃなんかもったいないっていう、そういうところは感じる。せっかく、なんか、何十年も時間があって、そんで、その時間を隔離だけに使うってのは、どうも、隔離にもちろん意味はあるけど、出てきたとき、また元の木阿彌じゃ、すげえ無駄というところがあって、でも、「じゃあ、どういう更生や懲役がいいの?」というと答えられないし、クロポトキンみてえに「自由な未来人になればいいんだ」とか言ってもいいんだけど、なんだよそれ、ハルヒは? みてえなところもあるし、保留、保留、馬鹿は半永久的に保留、銃で脅されたら持ち主の顔色見てスイッチ押す。そんだけ。

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