煙草2本分の人生

 横でおっさんたちが会議。だるい会話が子守歌みたいで、俺はもう眠くなってしまって、見えないように気をつけて眠りにつく。目がさめる。くそったれ、いまいち冴えない。いや、冴えないなんて30年ぶっつづけだ。煙草が吸いたくなって、雨の中、外に出る。タスポで買うのは慣れない。コンビニでライターと携帯灰皿を買う、ペットボトルのカプチーノ。屋根の下の駐車場に戻って買ったばかりの煙草に火をつける。路上禁煙、室内禁煙。
 適当に買ったキャスター。嫌いじゃない味。初めて吸った煙草を憶えている。キャビンだった。F1のタイヤを模した灰皿がついてきた。大学に入る前のことだ。一年と数か月の大学生活。煙草が支えだった。便所飯、なんてものはないころ。ただひたすら、煙草を吸って時間を潰した。煙草はいつでも一人にしてくれる。孤独を守ってくれるやわらかな盾みたいなものだ。
 うんこ座りして煙の行く先見る。しみったれた町。暗くて青いスクリーン。コインパーキングの光。片足引きずったじじい、長すぎる手足を持て余している中国人の娘、ラブホテルから出てきたカップル、ラブホテルに入るカップル。慣れてしまった俺。なんてことだ、こないだまで夏だったのに、もう寒い。何度目の夏だ? 秋だ? 俺は何年にどこでなにをしていたんだ。いつからこうしていたんだ? 
 くそ、昔から自分の生きている年代を憶えるのが苦手だった。俺が生まれたのは1979年。物心ついたのが1985年。俺の年表はそこまでだ。あとは適当に埋めてくれ。昭和に換算したってわかりゃしない。ひきこもったときにカレンダーをなくしたと思っていたが、ずっとだった。そんなもんか? そんなもんだろう。どうだっていいんだ。慣れてしまった。
 人の話す声がますます胸くそ悪い。気持ちがざらざらする。おまえら、そんなに下らなくて、なんなんだ。俺はどこに行ってたんだ。ひさびさに戻ってきたようだ。ずっとこうだったんだ。忘れていた。