中川昭一さんとジェーン・グレイの処刑とチューリップのこと

中川さんの死を知る

 4日午前8時15分ごろ、自民党中川昭一財務相(56)が、東京都世田谷区下馬の自宅2階にある書斎兼寝室のベッドでうつぶせの状態で死亡しているのが見つかった。

http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009100401000109.html

 俺が中川さんの死亡を知ったのはおそかった。昨日の夜十時くらいだ。なんとはなしにケータイではてなブックマークを見たら、上の記事が上がっていたのだ。
 意味がよくわからない。あの、中川昭一が死んだの? なに? ネタ? どうも俺は古い人間なので、ケータイのインターフェイスからはてな越しに見るニュースに実感がわかない。信じられない。いくら、コメント欄にネット上において同一性を保っているというアイコンと名前が連なっているを見ても、だ。
 ちょうど、おつきあいさせていただいている女性からメールがあり、末尾に「中川さん死んじゃったね」とあったので、電話して話を聞いてみた。だって、8:45からのNHKニュースのトップ、この話じゃなかったぜ。というか、俺は一日中何を観ていたんだろう。競馬とF1と競馬、買い物、録画したアニメ。まったく。

中川昭一には死んでほしくなかった

 正直、中川さんには死んでほしくなかった。いや、べつにこれは自殺というわけではない。人間いつか死ぬ。しかし、たまたま彼の身に、たまたま偶然で少し早い死がめぐってきたと考えるほど、俺は理性的な人間でもない。
 死んで欲しくなかった理由は、かつての騒動の時、中川さんの趣味を垣間見たからだ。

たくさんの名画を見ながら、「ふーん」程度で見進んでいったが、一枚の絵の前でハッとしてしばらく見続けた。
5枚のコピーとギャラリーの解説本を買い、家に貼ったが、家族全員に「気持ち悪い」と言われた。確かに夜中トイレに行くのに、電気をつけてギョッとしたこともあった。(決して変態な絵ではない)
解説本には「イギリスの歴史を描いた作品だが、芸術性は低い」とあった。
Lady Janeという絵だが、ハッとした理由は省略。
衆議院議員 中川昭一 公式サイト : 最近のMyニュース

 なんか中川さんに興味を持ったので、サイトを見ていたらこんな記述。ハッとしたり、ギョッとしたり、Lady Janeってどんな絵だ? 英国ナショナル・ギャラリー所蔵らしい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:DelarocheLadyJaneGrey.jpg
 これだな、たぶん。ポール・ドラローシュ、『レディー・ジェーン・グレイの処刑』。たしかにこんなの家に貼っていたら、家族から「気持ち悪い」と言われてしまうだろう。

中川昭一のひととなりを垣間見る - 関内関外日記(跡地)

確かに、ダヴィンチもコレッジョもブリューゲルルーベンスもバジール等の印象派も勿論素晴らしいと思う。しかし、私がハッとするのは若干マイナーかもしれないが、マグリッド(ベルギー)とエドワード・ホッパーアメリカ)。いずれも20世紀の、直線的で皮肉な画風。脳を刺激する。

 そしてこれだ。エドワード・ホッパーときた。「ナイトホーク」のホッパーだ。そうか、いいな。ホッパーはいい。俺は、展覧会も行ったことないし、画集も持っていないけれど、ホッパーには惹かれる。そうか、中川さん、あの中で飲みたいか。面白いじゃないか。なんか、闇があるな。やっぱり、いろいろあったのか、中川さん、どっかに闇を持っている。そこのところがいい。決して、政治家らしい好みとは言えない、そういうところがある。皮肉なところがある。

中川昭一のひととなりを垣間見る - 関内関外日記(跡地)

 ……引用の中の引用は中川さんのサイトから。そうか、なんかそうなのかと思った。ホッパーが好きなのがいい。『レディー・ジェーン・グレイの処刑』なんてのは、こんな絵だ。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7b/DelarocheLadyJaneGrey.jpg
 こんな絵をトイレに貼られたらこわい。彼の心にあるある種の闇のようなもの。身近な人、とくに家族には敏感に感じられたはずだろう。とくに奥さんにとってはそうだろう。だからこそ、あのとき、「日本一!」ってはげましたんだぜ。すごいかなしい。

だから、死んで欲しくなかったんだ

 で、俺は中川さんがアルコール依存症なのかどうか、はっきりと断定する材料は持ち合わせていないのだけれど、心身ともに疲れているようには見える。疲れ切った人間に見える。ちょっと休んだ方がいい人間に見える。だから、休むべきなんだ。これはなんの皮肉でもない。疲れた人間や病気の人間は、休んだり、治療を受けるべきなんだ。たぶん。それで、お医者さんに、「薬飲むときは、注意書き読めよ。酒と一緒に飲むなって書いてあんだろ?」とか教えてもらったりした方がいい。

中川昭一議員は休んでくれ、心身をいたわってくれ - 関内関外日記(跡地)

 そして、そんなのを読んだ俺は、すっかり中川さんが気に入ってしまった。……と書くと何様だが、「あんまり、中川(酒)とか言ってからかいたくないな」と思ったのはたしかだ。

 ……なに、いやに感傷的な、感傷的なだけの物言いだね、俺は。でも、俺はとくに政治のことがわからんし、中川昭一がどんな政治家であったか、どんな思想を持っているのかは知らない。知らないというか、興味が湧かない。ただ、あの立場にあって、ああなっている人間が、いったいどういう人間なのかというところに興味を持つ。だから、公式サイト行っても、政治に関する記事はまったく読む気がなかった。この非政治性の立場を取る政治性は、その点においていくら批判されても反論できる材料がない。でも、俺の興味は興味なんだもの。

 そういうわけで、ともかく中川氏には休んでもらいたい。正直、あんな会見を見せられては、ちょっとからかいたい気持ちが先走るが、もういいよ。民主党をはじめとする野党や、自民党の中、その他大勢の国民からぶっ叩かれるだろうけど、俺は心配するぞ。休んでくれ。また、‘チューリプ’でも育ててみてくれ(←本当に本人が手入れしてきたのかどうか知らんが、このチューリップのうなだれ具合、そして二枚目の狹苦しい端っこから写真撮ろうとする中川さんの姿は最高だ。すごく味がある)。

 それで、結局、「二世だろうがなんだろうが、大臣にまでなるような政治家って生き物は、こんな状態屁でもねえんじゃねえか。次、いきなり別の大臣になってたりさ」なんてことはなくて、選挙で落ちて、こんなことになってしまった。こんなこと、というのは、もちろん病理的な、あるいは突発的、アクシデント、そんな死ではあるが、しかし、俺はやはり運命とかそんなものにひきつけてしまう。感傷的な人間なんだよ、俺は。
 上に言及したチューリップの写真、サイトから引用させていただく。さようなら、中川さん。


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今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

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