『いい日、旅打ち。公営ギャンブル行脚の文化史』を読んだ

地元民に交じって土地の名物を食べながら、予想紙を広げ、レースを検討。そして、ライブ観戦。勝てば、夜はネオン街へ。これぞまさに、世のギャンブラーの夢だ。負けても名跡めぐり、温泉など、楽しみはいろいろある。競馬、競輪、競艇オートレース、全国に100以上ある公営競技場の、どれがあなたのお気に入りになるだろうか。全公営競技場を踏破した“達人”の道案内にしたがって、「昭和の香りを懐かしみつつ、賭けに興奮する」旅に出てみよう。

 今日の昼前に届いた。飯食いながら読み始めた。面白かったので読み切った。
 ギャンブルライターの旅打ちルポのようなもの、ではないのである。そこがいい。のっけから、戦前の競馬風景からはじまる。当時の文献もふんだんに引用されている。それがたまらん。なるほど、文化史だ。だいたい、章の構成はこんな風になっている。

まえがき 旅打ちとはなにか?
第1章 旅打ちの歴史―戦前に咲いた旅打ちの花
第2章 旅打ち趣味の断絶―いまこそ旅打ち
第3章 旅打ちの先人―参考になる人と本
第4章 いざ旅打ち―その前の整理と準備
第5章 旅打ちの実践その1―観光主眼編
第6章 旅打ちの実践その2―郷愁主眼編
第7章 旅打ちの衣食住―公営競技グルメの再興を
第8章 エア旅打ちも楽しい―忙しいあなたでも
第9章 あなたはどう旅打つ?―自分に合ったプランニングを
第10章 旅打ちの個人史―なぜ旅を続けるのか
あとがき あなたも旅打ちを始めてくれるだろうか?

 そうだ、まず「旅打ちとはなにか?」だ。いちおう、博打をかじっている俺のようなものにはわかる。だが、博打をやらん人にはわからん。Amazonの包みから出したのを見た職場の人は、「旅打ちって何? 麻雀を打つの?」と言ったくらいだ。いや、「打つ=麻雀」って。
 まあ、そんなわけで、戦前、戦後と競馬昭和史における旅打ち、みたいなものから入る。そして、実践編に入るのだ。その実践の趣味性がいい。今度は、生き残った「昭和」を探すのだ。「昭和」ってプロレスラーいたよね? まあいいや、俺も昭和生まれのはしくれとして、昭和が好きだ。東京競馬場より川崎競馬場の方が落ちつく。好きだ。スタンドも古い方がいい。でも、川崎も近代化著しいよね。まあ、そういう人間だ。だから、昭和を再現したテーマパークみたいな食堂などというのを、見てみたいとも思う。ありもしない郷愁だ。
 ただ、同時にその郷愁感、哀愁感は、問題を孕んでいる。昭和の施設が昭和のまま残されてしまうところ、言うまでもない公営ギャンブルの衰退だ。これは、この本の裏テーマのようになっている。さびれと活気は相反する。すごくさびれているのに、すごく売上が高い、なんて話はないだろう。逆に、施設は立派だけど、ということはあるかもしれない。もちろん、いくつかよいケースも紹介されているが、やはり著者の言うように「いまこそ旅打ちを」という、ある種の切実感はあるものだろう。

俺と旅打ち

 ただ、しかし、俺のような貧乏人からすると、まず「旅」の金がない上に、わざわざ旅をして打つほどの軍資金もない、ということになる。が、そのためにわざわざ「エア旅打ち」の章まで用意されているのだから、なんともたいしたもの。たしかに俺は、オートレース以外の三競については、いつでも券を買える状態にある。でもな……。
 ああ、しかし、俺にも旅打ちの経験はある。北海道、札幌競馬場だ。大学の競馬サークルの旅行とかいう、リア充きわまりない黒歴史だ。牧場めぐりと競馬、だ。あれはいつのことだったか。調べればすぐにわかる。

 ハカタビッグワンとデジタルハイパーを見たのだから、97年の9/13、9/14ということになる。函館はゴミなど落ちておらず、きれいな競馬場だったと思う。俺は現地の人にすぐに溶けこんで見えなくなり、同行者に不思議がられたものだ。
 その後、旅打ちなどということはしたことがない。だいたい、いまだに浦和競馬場にすら行っていないのだ。競馬以外といえば、ずっと昔に川崎競輪場に行ったくらいである。この出不精&在宅投票派にとって、旅打ちはハードルが高い。
 ……のだけれども、本書後半に重要な示唆があった。ほかの趣味と絡めてみてはどうか、というのだ。鉄道趣味、城趣味などなど。なるほど、となると俺の場合、目下のところ自転車だ。競輪ではない、クロスバイクだ。ここ横浜から自転車を漕いでどこかのレース場に行き、博打を楽しんで帰ってくる……?

 たとえば、上のケース。小田原に立ち寄ったとき目に入ったのが、小田原競輪の看板である。一瞬、競輪観戦して帰ろうか、と思ったのもたしかだ。道中には平塚競輪もある。
 下のケースでは、行き帰りの第一京浜沿いには川崎、大井があって、まあそれは旅に入らないにしても、聞けば江戸川競艇場というものもあるという。って、調べてみれば矢切の渡しよりこっちなので近いが、まあサイクリングの距離ではあるはず。というか、府中、中山、浦和、船橋くらいでも、サイクリング+博打が成り立つのではないか。
 そう考えると、俺の自転車走行距離が片道100kmとして……いや、博打をする時間を考えるとそりゃ無理だけれども、まあ頑張って50kmとしても、かなり選択肢はあるんじゃないのか、などと。たとえば、小田原なら範囲だ。朝、早めに出ればいい。おお、なんか、いいんじゃねえの?
 ……でもな、疲れるんだよな、どうも、博打は。とくに、現地となると、俺はどうも無闇に歩き回るくせもあって、かなり歩く。大井行き帰りだけでも、かなりの疲労。それ考えると、帰りが辛そう。だいたい、財布も軽くなって、それで、よく知らない街から、ペダル踏んで帰るのだ。これは辛そうだ。それとも、競輪帰りなら競輪選手気分で回せるだろうか? 甘くはあるまい。けど、それもなんか悪くないかもしれない。
 というわけで、「あなたも旅打ちを始めてくれるだろうか?」という問いには、なんとなく、そのあたりで、と、答えたくなった。あと、花月園なんかは、関係なくとっとと行っておいた方がいいのかな、とかね。

関連______________________