WBC世界フライ級タイトルマッチ 内藤大助vs亀田興毅

 山際淳司ナックルボールを風に』のプロローグ「ホーム・タウン」より。

 毎日、ホームに帰ろうとグラウンドで格闘している男たちも、やがて、長い間置き去りにしてきたホームへと帰っていく。
 誰もがいつか、どこかに帰らなければならない。拍手と喊声、熱狂に包まれてスタジアムに佇む日々は、あまりに短い。ドラマのあとには、日常がやってくる。それが現実というものだろう。
 ぼくは、そんな話を聞きながら、ギャレットにもっとビールを飲もうよといったことをおぼえている。

 寺山修司は「野球はホームインするのを見るゲームだ」と言ったらしい。ホームに帰ろうとする男たちを、阻止しようというゲーム。何万という観衆が、家に帰るのを数時間遅らせて見るゲーム。野球ではないが、内藤の次の記事を読んで、すぐにこのことが頭に浮かんだ。読んだばかりだからだけれども。

41戦目にして、日本人に喫した初めての敗北にも、内藤は「彼の方が強かった」とひと回り年下の新王者をたたえた。「国民の期待」を背負って戦い続けた名王者は「期待を裏切り、情けない」と自分を責めたが、数々の激戦の記憶を国民に残し、家族の元へと帰る。

http://hochi.yomiuri.co.jp/sports/box/news/20091130-OHT1T00060.htm

 内藤も、家族のもとへ、ホームに帰るのだろう。こないだ、武田幸三も帰っていった。彼らは、帰れた。

しかし、ボクシングを改めて見させてもらい、いかに頭へのダメージが大きいものかよくわかった。連打でバシバシバシバシ。蓄積はとても大きい。
その辺、総合の場合はグローブが薄いとはいえ、距離があるため連打はあまりなく、一発でやられる場合はあるものの、それが却って脳への蓄積にはなってない部分があるのかもしれない。
ボクシングは頭8割、お腹2割。総合はすべてを使うので危険度は高いように思われるが、いろんな関節技やら足へのローキックやらで、頭だけじゃないからその辺が助かっているような気がする。
ボクシング。過酷なスポーツだ。

昨日の亀田内藤 : 菊田早苗日記

最後まで内藤の逆転を信じていた

 内藤の鼻が潰れた。バッティングによるものか、左ストレートによるものか、テレビを見ていてもわからなかった。だた、亀田の左は何度も内藤の顔面をとらえた。
 試合前半、内藤の変則フックも亀田をとらえたように見えた。亀田に対応ができないのかと思ったが、どうもそういう展開にはならなかった。また、中盤で内藤のボディなどが効いたのでは? という瞬間もあった。巻き返しが始まるかと思った。が、どうもそうもならなかった。亀田は、顔を殴られても案外耐える。
 オープンスコアリングは常に内藤不利。俺の採点風のなにかも、それに近い。終盤も、内藤がペースを握れない。亀田、試合をコントロールする。チャレンジャーは採点で不利というが、そういう心配もなさそうな試合運び。
 でも、俺は、最後まで内藤が逆転するんじゃないかと、そう思っていた。清水智信の試合だって、絶体絶命から奇跡の逆転ノックアウトだったぜ。ほら、最終回でも、最後の一秒でも、クレイジー・キムというボクサーが最後の一秒で勝利を逃したって話も知ってるし……。
 が、奇跡起こらず。無念。残念。内藤よ……。俺は、地上波で見る限りでしかしらないが、数字以上に負けていたような印象がある、そんなボクサーだった。いや、負けていたのではない、ダメージを受けて、ボロボロになって、それでも、不屈の闘志と、鍛えられた肉体、高度なテクニック、ともかく勝ってきたのだ。それでも、肉体は衰えてくる部分もあるだろう。いろいろ、あるだろう。ただ、今は、おつかれさま、ナイスファイトと。