曰く言い難い情報のフック、スウェー、ダッキング

1回残り10秒、強烈な左フックを相手顔面へたたき込んでダウンを奪った衝撃で、知念の左拳が悲鳴を上げる。鋭い痛みを感じ、以降はパンチの威力がなくなっていく。最終5回には右フックを浴びて、マウスピースを飛ばされたほど防戦一方に。それでも、僅差の判定勝利に持ち込んだ。
「死ぬ気でがんばろうと思っていた。結果的に勝ててよかった」。3月の試合で痛めた左拳は、「たぶん、骨折していると思う」。医師の診察を受けると、ボクシング活動を休むことになりかねない。病院へ足を運ぶことなく、その後、この試合を含めて4試合を消化した根性の持ち主だ。

http://www.sanspo.com/fight/news/091221/fgb0912210506003-n2.htm

 ボクシングの全日本新人王決勝戦の記事である。ライトフライ級で、知念勇樹選手が、前田健太(!)選手に勝って優勝という記事である。俺はボクシングのことはよく知らない。ふむふむ、なるほど、なかなかの根性の持ち主、具志堅二世か、と、まあそう思うところの記事である。
 それをなぜこうしてメモするのか。俺は今朝、日刊スポーツを買って、この選手の記事を読んでいた。ぜんぜんニュアンスが違ったのだ。

知念は暇つぶしでボクシングを開始し今でもベルトへの欲求がない。

知念がLフライ級新人王/ボクシング - 格闘技ニュース : nikkansports.com

 知念は終始マイペースだった。インターバルではイスに座って足を組みリラックス。試合後のリングでは腕組みしながら「今後っすか? とにかく休みたいですね」と言い放った。与那城トレーナーは「変わってるんですよ」と苦笑した。

体質的に太りにくい上に主食が菓子パン

 今年3月から左拳を痛めていたが、封印するつもりだった左のフックで1回にダウンを奪った。会長は「あとは具志堅みたいな、完ぺきなボクシングが出来れば」。それでも知念は「具志堅さんは何級ですか? ライトフライ? そうなんや。よく比べられますけど、どうしたらいいか分からへん」と笑い、敢闘賞にも「敢闘って言葉の意味自体、分からないです」と目を丸くした。「とにかく半年ぐらい冬眠します」。ハングリーさとは無縁の異彩を放つ新星が、沖縄から誕生した。

 ……と、「ゆるキャラ」を強調していたのだ。
 さあ、どうだろうか、なんかおもしろい。いや、べつに俺はどちらかが正しくて、どちらかが間違っているとか言いたいわけじゃなく(とはいえ、彼が勤めた中古車販売会社について「父の紹介」か「父の経営する」で、事実関係でバッティングしてはいるんだけれども)、なんだ、まあこういうもんだろうな、と。まあ、そういうもんだ。
 で、俺はたぶん、今後、この知念選手の名を見たら、「ゆるキャラ」エピソードを思い出すだろうし、あるいはまたべつの媒体でそうである話を見たり、あるいはそうでないという姿を見たりするだろうし、それはそうなのだろう、などと思う。なんというのだろう、その、うーん、よくわからんが、たぶん、そこに俺の好きななにかがあって、説明しがたいんだけれども、そういうものなのだ。

俺はべつに古書に萌えているわけでもないし、エウセビオス萌えでもない。ただ、なんか、「あることがらや言葉が、時間や文化や言語の間を移動していくうちに、意味が変わってきたりするよね」萌え、みたいのはあると思う。

秦剛平『ヨセフス イエス時代の歴史家』を読んだ。 - 関内関外日記(跡地)

そんで、うまく言えないけれども、そりゃ漫画→アニメ間で、一種のロスト・イン・トランスレーションは起こるんだけれども、そこんところは、ただのロストじゃなくて、逆に、えーと、ゲイン・イン・トランスレーションみてえなもんもあるだろうし、この『青い花』みてえに、原作もアニメもおもしろけりゃ、それをどっちも享受できるのは幸いだね、とか。

ぬるい漫画好きアニメ好きが読む『青い花公式読本』 - 関内関外日記(跡地)

 翻訳で失われるもの……。俺は翻訳物の小説をよく読むけれど、そこにはいつも、それに関しての意識があって、それがとても興味深く感じられてならないのだ。

『ロスト・イン・トランスレーション』/監督:ソフィア・コッポラ - 関内関外日記(跡地)

 まあ、まったく説明できないのだけれども、俺の中では、このあたりの感覚が想起されるのだ。いつかうまく言葉にできるかな? まあ、できなくてもいいや。おしまい。