M-1グランプリ2009を見たのこと

ここのところテレビを見ていない

 ここんところずっとテレビを見ていなくて、理由もよく分からないんだけれども、本当に見ていなかったんだ。録画しておいたアニメは見るし、ニュースはつけておくけれども、これという番組を見ることが、めっきり減ってしまった。その原因はよくわからなくて、まあ人がなにかをしたり、しなかったりするのにいちいち理由だの原因だのがあったりするものでもないだろうと思う。
 それで、ひさびさに見たのがブラタモリだったんだけれども、そのあとにもう一つ見たんだった。酒を飲んでうとうとしていたら、いつのまにか画面にうつっていた、くりぃむナントカのナントカ1グランプリだ。俺はもう、この番組が終わっていたということすら知らなかったんだけれども、これの面白いことといったらなかった。ものすごく楽しかった。こんなにお笑い番組はおもしろいのか、笑えるのかと、衝撃だった。ハリセンボンの近藤春菜の、よくわからないオッサン風のアクションや、次長課長河本の「伝わらんか」。死ぬほど笑った。腹がいたくなった。

ものすごく久々にお笑い芸人の出てくる番組見たけど、無茶苦茶面白いな。タバコも酒もそういう方が楽しめるのか?

http://twitter.com/goldhead/status/6798542905

 ここで煙草が出てくるのは、いつも頭の片隅に次の文章があるからだ。島尾敏雄の『魚雷艇学生』からだ。

「誉」と名づけられた軍隊専用の包装も粗雑な安煙草を、一本抜き出すと私は口にくわえて燐寸をすった。そして最初の一口を深々と吸い込んだのだが、思わず遠くを見やる目つきになっていたようだ。するとどうだろう、口の中に残っていた羊羹の甘味とひびき合って、何とも言えぬ快い刺激が湧いてきたのだ。こんなにうまい煙草をこれまでに吸ったことがあるだろうか。それは実に恍惚! とも言いたい状態で、総てを忘却して浸ることができた。私は立てつづけに三、四本は吸ったろう。その恍惚を逃したくなかったからだ。しかし最初の一本ほどの忘我のうまさは二度とやってはこなかった。

鳥人ってこいつだろ?

 そんなふうにして迎えたM-1、録画しておいたのを放送の少し後から見た。ああ、ひょっとしてM-1まで笑い断ち(べつにそれまでたくさん得ようとしていたわけでも、あえて断とうとしたわけでもなかったんだけれど)をしていたら……と、思わないでもなかった……のは序盤。だが、笑い飯で弾けた。
Preludes Airs & Yodels (A Penguin Cafe Primer)
 ともかく、笑い飯の一本目につきる。どかーんときた。完璧におもしろい。島田紳助が100点をつけたのも納得できる。これは、はじめて笑い飯を見たとき以来の衝撃だった。「手ごたえはむちゃくちゃあります」と言ったとき、「そうだとも!」と思った。
ペンギン・カフェ・オーケストラ(紙ジャケット仕様)
 なんだよ、あのでたらめな設定。最高だ。俺の頭の中は、ペンギンカフェオーケストラのジャケットか、マックス・エルンストのコラージュみたいになってしまって、そこのところに「鳥進一」とか言われて死ぬかと思った。
ミュージック・フロム・ペンギン・カフェ(紙ジャケット仕様)
 すげえ笑った。
PENGUIN CAFE ORCHESTRA-tribute-

そして悲しきチンポジ

 そして、笑い飯の二本目につきる。最終決戦一本前のパンクブーブーはすげえ面白かった。ただ、一本目の笑い飯と比べると、一本目の笑い飯の方がおもしろいだろうと思った。ここで、笑い飯が二本目、なにをやってくるのか。
 そこでチンポジだった。俺はほとんどお笑いを見ないので、全部のネタが目新しい。しかし、最後のこれだけに見覚えがあった。面白くないわけではない。ただ、チンポジである。さすがに「ここでチンポジか」と思った。そして、俺は、大事ななにかがすべり落ちていくような、そんな時間を眺めていると感じたのだった。なにか、「やってしまった」ような、そんな空気。演じてる二人、客席、審査員、テレビの前の俺。
 でも、なんかそのしょうもない感じが、すげえ面白くもあった。「あちゃー」というような。松本人志島田紳助の「二本目用意してないから」を受けて、チンポジを打ち返してきたか、というような。悲願だ念願だとさんざん言われて、しかし、チンポジ。腹が痛いような笑いという意味では、パンクブーブーの方が、そしてNON STYLEの方が上だし、そう採点されるだろうし、それが当たり前なんだけれども、これはいいな、と。ようわからんが、かっこいいな、と。
 なんかこう、春の天皇賞でもなんでもいいけれども、逃げた馬が馬なりで後続に10馬身、20馬身くらいつけて、最終コーナーまわって、他の馬は鞭が入ってるけどぜんぜん後ろで、ってところで、いきなり馬っ気出しながら舌垂らして逸走、差されて3着、みたいな。
 で、そういう馬は馬としてネタにされ、愛されもするだろうけれど、競走馬としては大きなタイトルを逃すわけだ。で、一方芸人の場合はどうか、とか考えると、そりゃ賞レースであって、賞金と名誉を得られるわけなんだけれども、ただ、「ネタにされ、愛される」あたりの比重の大きさでは、競走馬に比べて逸走の価値は高いだろ、みたいな。いや、なんだ、価値とかそういう堅苦しいことなんじゃなくて、「おもしれえかも」、とかさ。

みんな面白かったよ

 そんでまあ、なんだ、でも、まあ、ともかく、みんな面白かったよ。笑ったよ。とくに、去年は自分に合わなかったNON STYLEが面白かった。これは意外だった。一年経って俺が変わったのか、彼らが変わったのか、単にネタが違ったからかわかんないけれども。それじゃあ、そういうわけで、また来年。あ、いや、年末年始の下らないお笑い番組はガンガン見ていくつもりだけれども。とくにテレビ東京のやつとかさ。

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 ……ひさびさに聴いてみたけど、俺、ペンギンカフェオーケストラ好きだわ。