しあわせ党の静かな夜

 満面の笑みを浮かべた大島さんは、集まった仲間たちに向かって、「見ろ、わしらには、こんな自由がある」と軽口を飛ばし、お好み焼きの「返し技」を披露します。お好み焼きがくるりと見事に一回転して鉄板の上に落ちると、仲間の一人が、「いいぞ、この調子でセイケンもひっくり返せるぞ」と合いの手を入れました。笑いのさざなみが起きます。みんなの顔に笑みが浮かびます。大島さんもますますごきげんです。
 笑いながら、大島さんは、ふと思ったのです。いつか、これと同じような光景を見たような気がするな。はて、セイケンとはなんだったんだろう……?
 「ほら、大島さん、次のもひっくり返しておくれよ。焦げちゃうよ」
 「おお、そうだ、わしの出番だな、よし」
 また、見事に一回転、ぱちぱちと拍手も起こります。おいしいお好み焼きは、つぎつぎに売れていきます。
 向こうでは、石破さんが、エプロン姿で豚汁をふるまっています。「味の方はどうかな?」とお客さんが言うと、石破さんは昔と変わらない生真面目な表情で、「その点については、最善をつくしました」とこたえます。ほかにも、八百屋さんを開いたりする人、お買い物をする人、みんな、それぞれの役目に自信満々で、いつも以上にいきいきとしているようです。
 少し離れたところに谷垣さんがいます。ひとりでぼんやりとみんなの姿を見ています。谷垣さんは、なんだか、とても幸せな気分になってきました。なにか大切なものを思い出せそうな気がしてきました。
 気づくと、ひとりの仲間がすぐかたわらに立っています。
 「どうしたんだい、大将、ほら、豚汁、うまいぞ」と言って、谷垣さんに豚汁を手渡します。
 「……ありがとう」と、谷垣さんが視線をあげると、その仲間はもういなくなっています。
 谷垣さんは、豚汁をすすりはじめました。豚汁はとてもとても熱く、とてもとても美味でした。谷垣さんは、一生懸命熱い熱い豚汁をすすります。谷垣さんは、なんだか、胸の奥まで熱くなってくるような気がして、ずっとずっと豚汁をすすりつづけます。頬に伝う涙も、壇上から見た光景も、銀輪で駆けた思い出も、なにもかも一緒くたになって、胸の奥で熱く熱く燃え上がるようでした。
 外にはしんしんと雪が降りつもり、すっかり白くなっています。しかし、彼らの窓から漏れる光はやわらかく、あたたかく、そっと雪を照らし続けたのです。いつまでも、いつまでも。
 おしまい。

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