積もりはじめた雪を踏む。ふりかえれば足跡ができる。俺は楽しくなって、くるくる回ってみたり、あてずっぽうに足を出したり、後ろ歩きしてみたり、わけのわからない足跡をつける。もしこの夜道をあとから歩いてくる人がいて、そいつが変な足跡を見て、ちょっと驚いてくれたり、「なんだ? 酔っぱらいの千鳥足か?」とか、一瞬でも思ってくれたら、それでいい。
そいつがまったく気づかずに通り過ぎても、それでいい。
そのまま誰もこなくて、雪がさらに降り積もって、まったく見えなくなってしまったとしても、それでいい。
もし誰かが気づいても、そいつは俺の顔も名前も素性も知らないし、俺もそいつの顔も名前も素性も知らない。俺の残した足跡と、そいつの気づきがあるだけでいい。なくったっていい。
俺の考える、地獄でないコミュニケーションは、そういうものなんだ。