美しいフットボールとはなんなのです?

 南アフリカワールドカップには失望せざるを得ない。その場限りの勝ち点ばかりに固執するリアリズムが支配し、フットボールの持つべき美しい創造性、進化する戦術、自由な発想に基づく調和を見ることができないからだ。そこで見られるのは、個々の能力を押し殺した機械的服従であり、相手の良さを徹底的に封じ込めようとするマイナスの意思ばかりだ。われわれはフットボールにこのようなものを求めているのではない。まるで日常の生活や労働、政治のようなものを世界最高峰のピッチで繰り返されたところで、それはよくできた悪夢、アンチ・フットボールでしかないのだ。
 ……というような論調があるようだけど(※俺が読めてないだけで、無いかもしれない。無いならないで、木偶相手のなにかなので以下意味ないけど、まあいいや)、よくわかんね。四年に一度しかサッカー見ない俺には、フットボールアンチ・フットボールどころか、サッカーとフットボールの違いもわかんね。
 なんつーのか、スペインにスイスが勝つためにはああやってガチガチに固めるしかないんじゃねーの? というのが素人目に映ったものだし、日本がカメルーンに勝つための精一杯のものは、あの試合だったんじゃねえの、みたいな。理想の美しいフットボール? をして、本調子とは言えないカメルーンにズダボロにされた方がよかったのだろか。いや、もちろん本当は日本にその能力があったのかもしれないが、クソ連敗してる現状みたいなのもあったんだろし、そこは現場がわかってたんじゃねえの、とか。
 まあ、しかし、なんだってスポーツは美しい方がいい。競馬だって捨て身の逃げ馬から堅実な先行馬、鋭い差し馬に直線勝負の追い込み馬が揃ってそれぞれ最高のラップ刻んでゴール前勝負みてえになったらいい。格闘技だって、お互いの持ちうる限りの技とひらめき、パワーとスタミナを出し切ったら名勝負だ。たぶんサッカーにもそういうシーンがあるんやろう。
 でも、真剣勝負っていったら、奨励会で居飛穴だらけになって、「相手が心臓発作で死ぬかもしれない」という理由で、本当の詰みまで指し続けるとかそういうところがあって。そこんところの、下手すりゃ自虐的でないかというようなリアリズム、松井の全打席敬遠みてえのは、逆にロマンだ、みたいな。弱者が強者を打ち負かすK.U.F.U.みたいな。
 ああ、しかしだ。たまーにNHKの将棋のぞいてみて、穴熊対決とか、序盤研究ですべてが決まる横歩取りの急戦法とかやられると、四年に一度しか見ない将棋知らずとしてはチャンネル変えるようなところがあって。そこで久保利明みたいのが、振り飛車から大駒ぶった切りながらズバズバ捌いていってたりすると、ちょっと見ようかみたいな気になるというか。
 いや、将棋もわからんし、サッカーもわからんし。でも、そうすると、通に好評なものと、にわかや全くの初心者に好評なものも違うか。競馬ファンが「なんだこのクソレース」と思うものも、初めて競馬見るファンにはアドマイヤレース並に素晴らしいものかもしれない(なんだそれ)。あとはそうだな、有力馬がスローで金縛りになって逃げ馬とか早仕掛けの馬が勝つようなレース。これは一方では凡戦だが、たとえば佐藤哲三が好きな俺だったりすると、それは名勝負になる。でも、いずれにせよ馬券が当たるとうれしい。
 そうだ、馬券が当たると嬉しい。日本代表が勝つと嬉しい。なんらかの縁で応援してる方が勝てば面白い。それもある。なんだって好きなものが生まれるところから始まる。「まず知る、そして好きになる」のではない、「好きになる、そして知る」のだ。色恋だって自然保護活動だってなんだってそうなんだ。

 あるチームへの縁、あるいはある選手への興味、そこから始まるんだ。いきなりサッカーの美しい戦術論に惹かれるやつは……いや、きっとそういうやつもいる、いるだろうけれども、それもすべてを学び終えたあとに「好きだ」ってなるんじゃなくて、最初にぱっとあらわれたものにピンと来るようなところがあるんじゃねえのか、とか。
 ああ、話がジャブラニの弾道のようにそれていったが、どういうことだ。まあともかく、俺はサッカーを云々できるレベルとは到底いえないので、サッカーの専門家さんの言うことにはそれほどなんか言えない。でも、初心者なりにこう、なんか違和感はある。でも、たしかに美しい勝負やそうでない勝負もあるだろう。美しくない戦い方にもその悲しい魅力があるだろう。
 いや、そうだな、そうだ、そのなんというか、ガチガチに守るだけ、的なものばかりになっては、そのジャンルは死ぬかもしれない。でも、もし「的なもの」ばかりになるようなものだったとしたら、それはそのジャンルの欠陥だ。
 たとえば、野球で「全打者がセーフティバントを試みた方が勝率が高い」みたいにセイバーメトリクスで証明されて、全チームがそれを採用したらそれはつまらん(それはそれで別のスポーツとして地平が開けるかもしれないが……とか横道の可能性を考えすぎて俺は物事をすっきりと言いきれない)。が、野球は野球なりにそうではないようになっているし、いろいろの戦術があって、よろしくやってる。もし、いかすバント天国になって、それがつまらないとなれば、なんらかのルール改正がなされるだろう。そうだ、スポーツのルールは神や自然が作った絶対のものではないのだ。サッカーのオフサイドのルールだって、そういうところから生まれてきたんだろ。
 というわけで、結論としては、「美しくないプレイが横行して競技の人気が落ちることを危惧するのであれば、個々のチームのありようではなく、競技ルールに働きかけるべき」ということで。……なんか美しくない、クソつまんねー結論だ!