あまり好かれていない寅さん


 話題になりはじめてからしばらく経つのだけれども、100歳以上のお年寄りが死んでいるのに生きているとか、生きているのに死んでいるとか、そういう話があるのだけれども、わたしは頭の中にあまり好かれていない寅さんを思いうかべる。
 もちろん、いろいろなケースがあるはずだし、家族内カルト的なものから、意図的な年金の詐取、あるいは殺人の隠ぺいだってありうるでしょう。けれども、ひとつわたしが思うのは、人間の死体ひとつというもののリアリティをかんがえると、おいそれとはそう簡単に処理できるとは思えない。いや、うそ、いろいろの殺人事件などについて、昨日までふつうの主婦だったりする人が、あっさりと旦那だったものをばらばらにしたりできたりするから、人間は底知れないなのだけれども。
 まあともかく、わたしはあまり好かれていない寅さんのことを思う。決まった住所を持たず、職もよくわからない、ふらふらしていて、たまに家族や親戚のところをおとずれる。でも、寅さんとちがうのは、彼ないし彼女に、家族や親戚が心底うんざりしているというところで、いなくなっても気にしないし、年金のようななにかが振り込まれても、いままでの迷惑料くらいにしか思われない。
 あんまりそのようなケースもないように思えてきた。もっと、失踪とか、蒸発とか、曰く言い難い、説明しがたいかたちで家族関係とかいうものはばらばらになったりするし、それはほんとうに個々のケースを見ていかなければ、てんで話にならないものだとそんなふうなものではないかしら。
 それにしても、日本のように戸籍であるとかそういったものがきっちりしていると考えられていた国でこのていたらくなどというけれども、これもわたしの想像にすぎないのだけれども、もうちょっといい加減な感じの外国ではもっといい加減のゆえにそんなにだれかが居たり居なくなったりしても気にならないのではないかしらん。誰かが死んでいるのに生きていたり、生きているのに死んでいたり。