軍艦島、痴漢、漫画、競馬、昭和、わけがわからん映画『純』!

純 [DVD]
 俺が生まれた1979年前後の映画である。内容はといえば、漫画家を志す青年がビッグコミックの新人賞に応募したり、バイト先である後楽園遊園地への行き帰りの電車内で痴漢をしたり、電車内で痴漢をしたり、電車内で痴漢をしたり、電車内で痴漢をしたり、生まれ故郷で廃墟になった軍艦島を訪れたりするものである。はっきりいって、なんといっていいかわからん。時代的にバブル前夜の空気を、都会と軍艦島との対比を云々、あるいは痴漢行為と恋人との関係云々など、なんか言えるんだろうとは思う。思うが、ようわからんし、俺はそういうものを言葉にする語彙がない。
 なので、もっと細かい話をする。なにせ、細かいところが映ってる。これがすばらしい。(この)映画のフィルムがどういう解像度のものかはわからんが、ともかく、俺の生まれた前後の東京の街や駅、駅の売店大映しになっている。これがいい。
 たとえば、競馬新聞だ。駅の売店では、競馬新聞が売ってたりする。勝馬や1馬とか、なじみの顔で映ってる。1馬は名称変更したばかりだが。それに、週刊競馬ブックに、「馬」という雑誌が映ったりしている。これもいい。ただ、作中では水曜日の設定なのに、中央競馬の競馬新聞を売ってるのはどうなのか。
 それは、この映画で競馬新聞が一番活躍するシーンでも言える。そのシーン、電車は府中に向かって走る。主人公は珍しく痴漢をしない。ほかのやつの痴漢を見る。ほかの奴ら。その痴漢集団は、新聞紙を広げて女性を取り囲み、半ば晒し者にするように痴漢を行うのだ。車内の男たちはその光景に息を呑むばかりでなにもできない。主人公もなにか衝撃を受けたようだ。このとき、痴漢集団が広げていたのが勝馬紙なのである(競馬ファンがこう見られていたとも! あと、こんな昔からこういう痴漢あったのかよ)。一様に、勝馬。確認できた文字列からは「新年がどうこう」「京成杯」とある。ちなみに、作中での設定はウィークデーであって、やはりちとおかしいのだ。ん? 京成杯

1970年には施行場を東京競馬場に移すが、1980年に再び中山競馬場に戻している。

 というわけで、東京競馬場なのはいいのだ。ちなみに、なぜ府中といえるかというと、痴漢の一人が女に言うのだ。「ほら、あれが調布の飛行場だ」と。ちなみに、エンドロールの「協力」のところに「勝馬」の名があったが、こういう使われ方は知っていたのだろうか。
 なんの話だろうか。『純』の話だった。競馬新聞以外にも気になるものがある。漫画雑誌だ。主人公が入選していたかどうか、というシーンで映った紙面、それは本当のビッグコミックそのものだったのか、映画用に作られたものだったかどうか。なにせ、一等入選みたいなところに出ていた名前が六田登である。

1978年、「最終テスト」が第1回小学館新人コミック大賞佳作となり、漫画家としてデビューした。

 これである。「最終」の「最」の字まで映っていたからだ。時期的には一致する。ただ、佳作ではなかったように見えた。さてどうだか。ちなみに、ほかに映っていた新人漫画家の名前をググると、けっこうひっかかる。
 さらには話は変わるが、軍艦島である。軍艦島というと、廃墟マニアとか奇景マニアには垂涎のものだろうし、俺も名前と概要くらいは知っている。

 これが、舞台となる。これがすごい。作中で何度もフラッシュバックのように空撮映像が出てくるが、終盤で主人公が墓参りに行く。そのシーンがいい。決して長くないが、おおよそ無人になってから5年くらい経った軍艦島の姿がある。ここまで廃墟になるか、というくらい荒れている。ビル、寺院、墓、海、ここのところは本当にいい。自転車で行きたいくらいだ。

 ……と、なんかバラバラだが、いや、しかし、いいんだ。一歩間違えば『幻の湖』になりかねないような雰囲気はあるが、そうではないのだ。なんだかわからないなにかが、なにかしらがあって、海外映画祭で評判になった(のかな?)のも、ジャパンの痴漢文化というばかりではないだろう。そこんところのなにかしらがうまく言えないので、こんなことばかり書いたが、これはなかなかいいもんを観たぜって思ったわけだ。おしまい。