船橋競馬場の印象、あるいはフリオーソが三角を回ったとき、雨がまた降りだしたこと

 「アブクマポーロを見たい」。その一心で、不慣れな東京の電車を乗り継いで船橋を目指した。乗り換えを案内してくれる携帯端末などはなかったころのことだ。たかが、三田から船橋のあたり。だが、ひきこもり性質の俺には、それでも大した遠出といえた。船橋あたりのなにかの駅を降りると、ちょうど競馬新聞を持った背広姿の男が前にいた。駅から競馬場まで、高速道路か電車かなにかの殺風景な高架の下を、その男と抜きつ抜かれつ競歩したのを覚えている。

 それ以来の船橋競馬場。便利な携帯端末で行き方を調べる。大井町りんかい線というのに乗り換え、新木場から京葉線に乗れという。俺はそのようにした。りんかい線というのは、あのモノレールもどきのようななにかかと思ったら、単なる地下鉄のようだった。

 あいにくの空模様だった。そして、まさに季節の変わり目でもあった。

 知ってる騎手も少ない。張田京も急な乗り替わりでお休みだった。まあ、乗り換え対象が坂井英光戸崎圭太だったわけだが。しかし、こういうとき、ちょっと盛り上げるためにせっかく来ている中央の人気騎手に頼めないものだろうか。なにかルールがあるか。いや、そもそも乗りたがらないか。









 船橋は想像していたよりこぢんまりしていた。俺の中でなんとなく「大井>船橋>川崎>浦和」という図式があったが、川崎の方が上だろうか。施設的なことだ。船橋の馬や人のレベルは高い。そういう印象がある。

 雨は降ったりやんだり。気温は下がる一方。この日俺が食ったもの、白一本、スジ一本、タイカレー。よくわからないがタイカレー。「パクチー大丈夫ですか」と聞かれたので、「マシマシで」と答えた(嘘である)。



 レースはといえば、あいかわらず俺は見放されているみたいだった。なにかに見守られていたことがあるのかどうかしらないが。

 祝日、交流重賞の日なので、イベントも行われていた。ベストドレッサー賞、そしてメーンレースの予想大会である。競馬メディア関係のお姉さんたちが何人か出てきたが、俺はラジオと地上波しか知らないのでよくわからない(目黒貴子は知ってる)。むしろ、別冊宝島競馬読本世代のアイドルといえば、須田鷹雄である。生で須田鷹雄を見たのは初めてだろうか。大井競馬の、あるいはばんえいあたりのイベントで見たことがあったかどうか。10レースの前、マークカード置き場のマークカードに手を伸ばしたところ、目の前にその須田がいて、素早くマークカードを記入し穴場に並んでいた。浅野という人もいた。とくにだれも気を払うふうでもなかった。

 客層はといえば、思いのほか若かった。下手すれば大井より若いかという印象があった。俺が年をとっただけかもしれないが。






 日本テレビ盃、である。この日、メーンレース前まで的中ひとつもなしのクソ地獄。せめてここだけは当てて帰らなければならない。そのために、真剣に予想をした。真剣になにかを考えるといっても、俺には血統理論もスピード指数もパドック相馬眼もないので、やはり予想トークショーのようなものはありがたい。して、いろいろの話を聞くに、そんなに手を広げない三連単で勝負すべきという感じになってきた。一着がありそうなのはフリオーソか、スマートファルコン。本命を決めるならどっち?
 俺はあまり迷わずフリオーソとした。いよいよようやく、こんな感じの雨の日の、すこしスピードが必要そうな馬場、こんな日はフリオーソが行ったまんまつかまらないと、そんなことに気づいたからだ。その気づきが本当かどうか知らないが。本命すなわち、三連単の一着欄はフリオーソ。対抗に「三着はないタイプ」というスマートファルコン。三番手はトランセンドテスタマッタテスタマッタの骨折明けを嫌気してトランセンド。ともかく、この並びの三連単一点をゴソッと買った。
 ちなみに、パドックフリオーソは普通に見えた。かといって、中央強豪でそれ以上にすごくピカピカでオーラを発しているようなのもいなかったので、予想通り買った。ちょうど11レースのパドックあたりから雨がやんだ。

 レース。スタート後はすこし先行争いが激しくなった。

 が、帰ってきてみればフリオーソ一頭。役者の違いを見せつけた。フリオーソが三角を回るころ、また大粒の雨が降りだした。問題はといえば二着と三着。最後に伸びてきたスマートファルコンが間に合っていれば俺はプレイステーション3を買って帰る予定。逆も抑えているにはいたが、面白くはない。でも、一応はそれなりに競馬を見てきたものの勘としてはスマートファルコン届いてない。……のだが、スロー、アップ映像を見るとけっこう際どくて、スマートファルコンの鼻の色の具合もあってよくわからない。よくわからないと思いたい。よくわからないにすがりたい。そんな気分。あっさり打ち砕かれるわけだが。
 そういえば、予想トークショー須田鷹雄が「武豊の具合が気になるが、左回りの内枠なので、右ムチだけでどうにかなるだろう」などと述べていた。まあ、最後のハナ差にどれだけ意味があるのかわからないが、やはりそこに意味を見出してしまいたくもなる。

 帰ってきて撮った写真を見ていたら、武邦彦のように見える武豊が何枚かあった。武邦彦の現役を知るわけではない、顔の印象の話だ。あたりまえだが、武豊も老いる。いずれイチローも老いるだろう。おそろしい話である。

 最終は石崎隆之が見事なまくりを決めた。俺は外した。

 それじゃあ、また。