石黒正数の『ネムルバカ』と『探偵奇譚』を読んだ

 たいそう素晴らしい『それでも町は廻っている』を既刊分読み切ってしまった。アニメの方でいきなり4巻のエピソードが出てきたので(すこしふしぎ系のネタは飛ばしていくのか? アニメの最終回は「それでも町は廻っている」ではないかと思うが)、先回りしておこうというあたり。もう少しゆっくり読みたかったので、やや想定外ではあるが。
 して、その分というわけではないが、『ネムルバカ』と『探偵奇譚』を買い足して読んだ。

ネムルバカ』

ネムルバカ (リュウコミックス)


 『探偵奇譚』は短編集。冒頭の「探偵綺譚」には嵐山歩鳥と紺先輩のバリエーションが主役。スターシステムというわけではないのだろうけれども、なかなかよい。しかし、歩鳥はいつから目の美少女ハイライトを失い、黒目系のちょうちんふぐになっていったのだろう……(むろん、ますます魅力は増し、「結婚したい」感じにはなっていくのだが)。その他、日常からのSF系など。毛色の変わったところでは、パチスロ雑誌に掲載されたパチスロ……ルポ? などあって面白い。


『探偵奇譚』

探偵綺譚?石黒正数短編集? (リュウコミックス)


 『ネムルバカ』は一冊完結の作品。これも大学生バージョンの歩鳥と紺先輩と見てもいいだろうか。紹介文だけ読むと日常系漫画のようだが、人生についてひりひりするような代物だ。動きがあって、山場もあって、終わりもよし。一冊の漫画としてほとんどパーフェクトといっていいかもしれない。やけに冊数が多いと手が出しにくかったり、かといって一年に一冊ではもどかしい、そんな身勝手な嘆きに対して、こういう切れ味のよい一冊というのはすばらしい。
 自己実現、夢と人生。そのありようについて、これが青春というような割り切りもなく、まあもやもやしていてよい。ただ、この作者『それ町』の亀井堂のお姉さんの口からも語らせたが、表現することについての高い意識がある。このあたりのベースがあるから、なんか全般的によいのだろう。よいテイストがあるのだろう。よくわからんが、そう思う。
 しかし、大学生活といえば、これにリアリティがあるとも思えないが、かといって俺にそう言える経験もなにもない。ただ、大卒して就職といった順路を辿れず、かといって夢のようなものについてなにかアプローチするでもなく、よくわからないことになってしまっている。かといって俺はこれ幸いという部分もあって、まあむしろ、今モラトリアムの最中か、31のおっさんがな。でもな、俺らのために、俺がな。