競馬が嫌いな方へ

締切五分前のメロディが頭の中のノイズをかき消していく。マークカードを塗りつぶす手に、自然と力がこもる。色とりどりの勝負服が舞うように流れていき、本命馬がゆっくりと、沈む。馬柱を見つめていると、次第に頭の中が整理されていく。「集中できる」と言う人もいる。「財布が空っぽになれる」と言う人もいる。誰にも干渉されない。でも、ひとりぼっちでもない…。ちなみに「耳、手、目が刺激され脳にいい」と、競馬をお年寄りに楽しんでもらっている老人ホームがあるなら見てみたい。ちょっと時間があいた、なんてことがあったら、水彩画でもはじめてみなさい。12月26日は、有馬記念
日本中央競馬会
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 つまり、普通の男が競馬場にいる理由を考えてみると、イカレてしまったからなんだ。工場でボルトを回して、工場長の正気の沙汰じゃない顔を見て、大家からは家賃をせがむ手を突き出され、女とは冷めたセックスとくれば、競馬場しかないだろう。税金に癌とくれば、憂鬱になるしかない。三度着ただけで破れた服、ションベン臭い水、流れ作業のように患者を診て、スケベな診察室で治療するエロ医者、血の通わぬ病院、女のことしか頭にない政治家ども……いくらでもあるが、いくらいったって、世をすねたイカレポンチと馬鹿にされるのがオチだろう。世間のほうがだれかれかまわず気違い男に(それに気違い女にも)してるんだ。聖人だって気違い扱いさ、救いはまったくなし。まったく、ひどいもんだ。まあ、いいさ、数えてみると、これまでナニは二千五百回しかしていないが、競馬のレースは一万二千五百回も観ている計算になる。だから競馬に関してなにか一言いってくれっていわれたら、こういうね。「水彩画をはじめなさい」
チャールズ・ブコウスキーブコウスキー・ノート』

 
 
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