寒い冬が自転車にはもってこいの季節だからといって、いくらでも寒ければいいというわけではない


 まだ、10km。サイコンが壊れたのかと思う。いくら漕いだのかという気になる。いっこうにスピードは出ない。歩いたほうがまだ速いんじゃないかと思う。いくら脚を回そうとも体に熱は入らず、圧倒的に冷えていく。まったくうんざりしてしまう。今日みたいな日は、自転車を漕いでどこかに行くべきではないのだ。いや、そもそも月曜日の今日、なんで俺は自転車を漕いで16号を走っているのか?
 旭区のどこか、マンションに併設された小さな公園に自転車を停める。過去、少なくとも三回はここに停まったことがある。iPhoneを取り出して、Safariの検索欄に「カレンダー」と打ち込む。祝日だった。いっそのこと、踵を返したいくらいだ。
 背中のすばらしいドイタートランスアルパイン25から予備の手袋と100円ショップで買ったフリースのネックウォーマーを取り出して装備する。ヘルメット、サングラス、鼻まで隠したフリース、三番アイアンでも持って、パチンコ店に押し入りそうな感じ。
 フリースで顔を覆うのは、悪くなかった。もっと呼吸が苦しくなるものかと思っていたが、それほどでもなかった。Wiggleでサイクル用のものを買えば、もっといいのだろう、もっと何事も。
 それにして、だ。俺とてクロスバイクに乗り始めてから……2年くらい? もちろん冬に乗ったこともある、厳冬期に関東北部を目指したこともある。それにしたって、こんなに寒いということはなかった。今までの経験から、重ね着を失敗しているとも思えない。体調はといえば、そんなによろしくはないが、それほどひどいとも思えない。
 ともかく、この日は異常だった。まったく、びっくりするほどに。いくら漕いでも漕いでも、体が温まってこない。意味がわからない。無味乾燥な16号、ドン・キホーテすき家なか卯マクドナルド、ブックオフニトリ、大きいドン・キホーテ、中古車屋、大きいブックオフ。(最初の写真は相模原慰霊塔。10kmよりもっと先。なんとなく公衆トイレのある公園の気配を感じて道を逸れてみたら、みごとに正解だった)

 気づいたら湖。

 ザ・津久井湖


 ダム。一応、展望広場はあるが、観光的に言って宮ケ瀬のようなことはない。そっけない方向を向いて、なにかいじけているようなダム。

 支那そばと中華そばを併記するこの世界のルールがわからない。

 一応は、目的地だった。なんとなく、湖の方へ。幻の湖へ。

 そもそも俺は、ありえないほど遠くへ自転車で行く男ではない。ありえる範囲に行って、帰ってくる。自転車をばらすのが面倒なので輪行もしない。行くところは限られてくる。県内はほぼ行った……というと言い過ぎだが、それなりに通り過ぎたりはしているだろう。ただ、左上の方は別だ。左上。

 左上の方は峠とかあって、峠は坂だ。坂というと俺は脚をつるし、おもしろくない。ただ、もう行き先もなくなりつつあるような気もして、とりあえず様子見にきたのだ。あいかわ公園あたりが高いところにあるのは知っているので、今日は津久井あたりを偵察しよう、場合によっては強行偵察しようと。もっとも、寒さにやられてまったくそんなつもりはなく、坂の下まで来たら帰ろうというくらいになっていたが。
 で、まったくよく知らなかったが、津久井湖というのは山の上ではなく、むしろ街より低いようなところにある……という印象。ここからまた相模湖の方まで行けばどうか知らないが、津久井湖自体は低かった。

 せっかくなので、県立津久井湖城山公園を押さえておこうと、ちょっと坂を登る。パークセンターは山の上にある。けっこうな坂を登る。いや、この高低差はひさびさというか、よく登りきりました、という具合。
 で、城山なので武者みたいのがいた。

 梅なんかもちらほら咲いていて。

 山に入る。

 山と言っても公園の園路ではありませんという程度の山道で。

 わけのわからないハイテンションで、右手にカメラを持って(すばらしいハクバのハンドストラップで)、早足で登っていく。靴はスニーカー、ただし水分と食糧はある。

 せっかく男坂を登ってみたが、いまいちどこが山頂だかわからなかった。たぶん、到達しないで、道を間違えて女坂を下ってきてしまった。

 緑区民の住むところ。

 ツチアケビ(腐生植物)……の腐ったの。

 そうだ、カメラの話を忘れていた。日曜日にソニーのサービスステーション(桜木町と横浜の間、陽光都市開発のグリフィンばかりあるあたり)にα550を持ち込んだのだ。買ってすぐに気づいて、見て見ぬふりをしたり、Photoshopで修正してきたゴミのことだ。レンズを換えても写るそれ、本体内の問題。マニュアル通りにブロアー吹いても落ちてくれない。
 で、メンテナンスに出すにしても、送って帰ってきて一週間かそこらはかかるだろう。その間に、なにかシャッターチャンスがあったらどうすんだ! ということで、ズルズル引き伸ばしてきたのだった。が、調べてみたら、ローパスフィルタの清掃には1時間だかなんだかお時間をいただきますみたいなこと書いてあって、「え、サービスステーションみたいなのでやってくれんの?」ってなって、電話かけて聞いてみたらそんなんで。
 で、行ってみて、なんとまあ保証期間内だし、ロハできれいにしてもらったと。なんかわからんが、ゴミの拡大プリントアウトみたいなのでbeforeとafterも見せてくれたし、すばらしい。「伝票にはCCDってありますけど、CMOSですので」という技術者の心遣いもすばらしい。俺には違いがよくわからないが。
 というわけで、しばらくは空を撮ってもゴミなしなわけで、まったくもっと、早く、調べておくべきだった。まったく。

 そして帰路につく。

 午後になって日も差してきて、風も弱まったか、帰り道はそんなに悪くなかった。75kmくらい走ったところでだんだん元気になってきて、最後は快調だった。手元にサイコンないや、93kmくらい。
 スポーツドリンク2本、牛鍋ねぎ玉セット(吉野家)、カレー(松屋)、チオビタドリンク、ウィダーinゼリー、缶コーヒー、使い捨てカイロ2個。のどはかわかないが、腹はやけに減った。カイロはハクキンのをひとつ携帯していたが、ひとつでは足りなかった。