予想以北! 『SR サイタマノラッパー』

SR サイタマノラッパー [DVD]

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 『SR サイタマノラッパー』である。俺と日本語ラップについては、だいたい次のようなつきあいである。

 昔からすごく好き、というものではない。むしろ、多くの人と同じく偏見を持っていたようなところもある。
 あるいは、「リンカーン」で見た練マザファッカー。日記を探してみたらメモがあった。

 しかし、日本語ラップ? ヒップホップ? ってのはいったいどのあたりを指すのか門外漢にはわからないものだが、このあたりも一つのリアルと言っていいのだろうか。ブリンブリンの札束ゴージャスってわけじゃなく、単管ブリングブリングの工事現場(あんな格好でやるとも思えないが)。まあ、ともかく、独自のスタイルがあるのがかっこいいメーン。喫茶店でラーメン食ったっていいメーン。ディスってのんか? ディスってんだろ? 単管持ってこいメーン。

久々にリンカーン見たメーン - 関内関外日記(跡地)

 そう、なんというのか、リアルなラッパーというものを見たのはあの番組がはじめてだったろうか。上の日記を読み返してみても、ともかく「ディスる」とか、「メーン」にそうとうやられてる感はあるが、思ったより馬鹿にしてないね、俺。むしろ、どっかしらかっこよさみたいなもんを感じていたというと言いすぎだろうか。でも、有名芸能人の大きめのテレビ番組というと、それなりの圧があるだろうが、一歩も退いてねえよって強さはあった。そこが面白くもあるんだが。

 それはそうと、『サイタマノラッパー』だ。俺は、この映画を観る前にすこしばかり誤解していた。どのあたりの埼玉か、ということだ。俺は「さいたま市」あたりというか、県南部、東京都よりの話だと思っていた。つまりは、練馬の延長線くらいの、下手すれば横浜より栄えている都市の話と思っていたのだ。
 が、舞台は埼玉県北、深谷市をモデルとしたフクヤ、だった。そこはといえば、レコード屋すら存在しない、畑ばかりの田舎なんだな。農道、でかい鉄塔、本を売ってるのは小さなマルエツみたいなところの雑誌売り場。そんなところ。もっとざわつきのある舞台かと思っていたら、なんというのか、もっともっとミニマムでローカル、ローカルすぎる。

 なんつうのだろうね、そんな田舎で、ヒップホップ? ラッパー? ってね、すげえダサイの。むしろ、イタイの。そこんところの、底抜けの見ていられない感が、ドキュメンタリのような映像でね、ワンシーン・ワンカット? でね、淡々と映されてる。ものすごいリアル。リアルなスーパーに、リアルな部屋、リアルな国道。安いエアガンとか、あれはたまらん。ともかく、日本語ラップってそもそもかっこいいんだぜ、なんて前提で作られていないんだ。市役所のさ、若者と語るみたいなところで演奏するシーンとか、もうすごいところに持っていったなって。そこで質問する教育委員会の女の口調とか、むちゃくちゃいい。RHYMSTERの宇多丸曰く、主人公たちのようなラッパー志望が異常にリアルというが(Youtubeの関連動画だいたい見た)、そこんところはようわからんが、それ以外のすべても、なんというのだろう、むちゃくちゃ完全に作られてる感じがする。埼玉北部を切り出してきた、みたいな。いや、実際のところは知らんが、しかし、そうなんだ。
 それで、もう、なんだろうね、いろんなもんが詰まっていて、なんともね。そんなに長い映画じゃないんだけど、すげえ詰まってる。高校中退して東京でAV出て、戻ってきてた役のみひろ、すごいよかったね。そして、それに対して、倉庫で、主人公が自分たちの曲かけんじゃん。でも、言いたいこと言えない、なに言っていいかわかんない、あの感じ。
 いや、でもなんというか、ラストシーンな。あれはすごい。ああ見ていられない、というようなときの、俺は誰にどう感情移入してんだ、みたいな。それでも、目を逸らせない、というところで、「!」ってな。泣けるわ。宇多丸によれば、今まで自分の語るべき言葉を持たなかった人間が、はじめてラップという表現によって言葉を発した瞬間というのか、難しいことはわからんが、ともかくなんか極北のようなところでなんか出た!……のか? みたいなところがさ。
 つーわけで、予想以外、予想以上に笑えたしグッと来た。『SR2』も楽しみだ、と。

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SRサイタマノラッパーO.S.T.

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……金があったらすぐに買ったと思うサントラ。今は無理なので。