今、おれに必要なのは脳を一発で変えるドラッグ、首をくくるロープ、よく切れる包丁、宝くじの一等、偽造した宝くじの一等!

 西洋の科学技術社会には、思考することと行動することとを中心にパーソナリティが組織化されているような人びとであふれている。理性を理想化し人間の活動を通して達成される進歩に信頼をおくのが啓蒙思想の特徴であり、これらはまだわれわれの集団心理に染みとおっている。西洋文明はアジアや第三世界の国々とは対照的に、科学的合理性と「やればできる」式の実用主義を一番といってよいほどに尊重している。多くの人々は理論的な思考や実際問題を解決する能力にもっとも価値をおいている。思考し行動することによって喜びを追い求め、そこから誇りを得ることがわれわれの社会では規範とされているために、そうした活動がそんなにも尊重され特別視されていることの複雑な意味はほとんど省みられない。
『パーソナリティ障害の診断と治療』ナンシー マックウィリアムズ/成田 善弘、神谷栄治、北村 婦美 訳

 おれが精神科だか心療内科だかにかかるほど脳の具合が悪くなった。抑うつ的な性格、メランコリア希死念慮、そんなものはずっと昔から抱いていたが、今度は心身ともにやられたといっていい。しかし、その上で、さらになにかをしなければならないという焦燥感、義務感にとりつかれたのも事実である。とりあえずおれに「やれること」といえばネットや本から病気や障害の知識、その対処を得ることで、診療以外でもよい方向にもっていくことが「できる」のではないかというものであった。場合によっては処方されない薬だってゴニョゴニョしてやろうかという勢いである。そうしたら、とりあえず上の本にこんなことが書いてあったりしたのであった(日本向け序文に、「国によって社会や文化、価値観が違うから、なにがパーソナリティ障害かなんて基準も変わるけど、グローバリゼーションの中でだいたい均一化してっし、日本なんかもそうだろ」みたいなこと書いてあったと思う)。
 え、鈴木大拙の『東洋的な見方』や『日本的霊性』に深く深く傾倒しているくせにかよ? と、自分でも思うのだが、そういう性格もおおいに持っていて、精神科だか心療内科だかにかかるにしても、こちらもいくらか向こうの言うことを理解しやすいようにしておいたほうがいいだろうという心づもりである。実際問題の解決にあたって、できることはしなくてはならないという……強迫的な観念がある。
 というわけで、おれは、一般向けの半ば胡散臭いような心理本に飽きたらず、金もないのに5,000円もする専門向きっぽい本を買ってまで……というのは嘘である。正直に告白するが、この『パーソナリティ障害の診断と治療』は図書館で借りたものである。おれは生まれて初めて図書館を使った。いろいろな人格障害のなかにビブリオマニアまで抱え込んでいる(年金が入るようになって、借家のほかに書庫用のアパートを借りたらしい)父親から「本は借金しようがなにをしようが買うものである」と小さい頃から言われつづけ、それを完全に内面化していたおれが、本を、借りたのだ。おれはそのくらい追い詰められているといっていい。
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 というわけで、なんにせよ育ってきた環境、家族と心理的な病気は切っても切り離せないということであって、今回のメーンの感想はこの本。別に、図書館の本棚に分厚いジェノグラム(家族構成図)による精神的なんたらの本があって、「サラブレッドの血統本みてえだな」と思って手に取りかけたが、どうもアメリカの本らしく出身国がどうこうというあたりもあって、それはそれで面白そうだが、今のおれにはさすがに関係なさそうなのでやめた。まあ、上の『パーソナリティ〜』も精神分析的手法の解説や実践がメーンであって、前半のフロイトから現代までの概説みてえなところは一読ふむふむ(あとでテストがあってもいい点は取れない)というというところだったり、「抑うつ性パーソナリティ」とか関係あるところはやはり気になったり大いに引きこまれもしたが、まあ病気のおれ本人向けの本でもねえよな、と。
 まあまあ、それで、代わりにこのいかにも手に取りたくなるようなタイトルの新書を一冊加えたということで。これまた著者については毀誉褒貶あるようだけど、知らねえよ、もう。
 でもって、この本なんだけど、「家族という集団の均衡を維持すること」が「症状の役割」(!)という逆説的な発想からあれこれやっていく家族療法入門編みたいな内容であって、なかなか面白かった。いや、正直言って、自分もそういう傾向にあるせいか、人間の病んだ心の話は大好物なのだが。つーか、これはいろんな水準、いろんな意味で、ひょっとしたらこの世の大多数の人間の好物なんじゃねえだろうか。わからんが。
 で、「一見混乱しているようにみえるが、一定してくりかえされるリダンダンシー」だの「家族というシステムは独自のホミオステーシスに従い、そこからはずれるとネガティヴ・フィードバックされて元に戻る」だの「肯定的なリフレイミング」だの面白げな話がたくさん出てくる。
 そう、なかでも「パラドックス指示」、「治療的二重拘束(ダブルバインド)」なんてのはとくにひどくていい。ひきこもりの我が子にうんざりしながら嫌悪を滲み出させて「あんたのことが大切なのよ」とか言ってるような、冷たい過干渉してる母親にはこんな指示を出す。

「日に最低3回、息子さんに『あなた大好きよ、いつまでもこの家にいてね』と言いなさい。ただしそのとき、怒った口調で言うのですよ」と指示したとすると、この指示は母親の「冷たい過干渉」への非言語的な(暗黙の)警告になります。

 で、母親は、指示通りにすると子どもは怒るし、しなければしないで医師の命令に背くという中吊りになって、いままで自分のしていたことに対して慎重になったり、あるいはもうそれを放棄してしまう。それで、家族の均衡を突き崩す! 家族療法こわい! でもって、ひきこもりの子供が意を決して診療に来たら「ゆっくりやりましょう、とりあえず向こう一週間は外出をいっさい控えて、来週来て報告してください」みたいなこと言うんだってよ。すげえな。まあ、これは患者とのラポール(信頼関係)ができてねえといけねえっていうんだけど、しかしなんかさ。それで、この本に載ってる家族療法の実例なんかもけっこう壮絶で、わりとえげつねえなとか思ったりしました。おしまい。
 ……って、なんかメーンに触れてないというか、まあおれが逃げてるのかもしれないが、やっぱりどうもおれはまだその段階ではないのかもしれないが、カウンセリング的なものとか、精神分析とか、そういうのはなんか読み物的な実感しかない。むしろ、薬物で脳内の伝達物質をコントロールしてどうにかなんねえか、みたいな、人間は血と肉で機械だし、いずれ脳内の神経細胞もリアルタイムモニタリングできるようになって、感情なんてテレビのリモコンで操作できるレベルまで還元されるんだろうって信じてるんだけれども。おまえ、その上で残るものがあるとしたら、それこそが霊性、ゴーストだろうよ。 
 いや、すみません、何度も書いてきたとおり、我がジェノグラムはわりと悲惨な脳と体の病気のニックスやインブリードにあふれておりますし、うちは機能不全家族だよ、ほんとに。けど、なんつーか、この本でピリッときたのは、家族療法云々より、この著者の持論らしき部分かな、というのが正直なところ。

 私の本の読者の多くは「とかくこの世は生きにくい」と思っている方々です。自分は恵まれていない、弱者である、と信じこんでいる人が多い。この本はそうした読者の皆さんをエンパワーするために書きました。

 私は「病気は皆さんのパワーの表現です」とか「何かに役だっているから病気が続くのです」と言い続けてきました。皆さんの問題はパワー不足にあるのではない。病気なり愁訴なりを抱える現状を変えようとする勇気に欠けているだけです、と。

 要するに勇気がないんでしょ! って、このあたりが序文にあって、最終章は家族療法の話題から直接的には離れて「エンパワメントの13ステップ」。ここのところにうならざるをえなかった。ここでこの13ステップを羅列、要約して、記事のタイトルも「人生を前向きに生きるエンパワメントの13ステップ」とかにすれば852userだろうが、おれには臆面もなくそんな剽窃的なライフハックブログを書く勇気がない……、って、違うわ。
 えーと、なんというのだろうね、クソ地獄人生と社会に完全にうんざりしているわりに、医者に行ってる自分はいるわけでさ。

 「自己肯定など、そんな難しいことは私にはできない」と思ったら、飛ばしてもいい。ですが、「元気になろう」と思うこと自体が既に、自分を肯定する作業なのです。

 とか言われると、ムムム……となってしまうわけで。それで、過去の自分の力を自覚しろっていっててさ。運転免許でもなんでもあなたの力で勝ち取ったものだから、自分の力として感じろという。その上で、「私にはなにもない」というやつがいたとしてもさ。

 もし何ひとつやらずに家に十数年、あるいは数十年こもり続けたという人がいれば、私はその人の我慢強さに打たれます。何かの病気を持っているならともかく(その場合には疾患との激務をこなしていたわけです)、引きこもり続ける力というのは並大抵のものではありません。両親の経済力のおかげというのであれば、その親たちからのケアを引き出すことにあなたは有能だったのです。

 なんという逆転の発想! って、驚くわけじゃないんだけど。

 とかさー。

 ひきこもりとか、ニートでいることは得意だ。これに関しては、天賦の才能、プリンスリーギフトがあるかもしれない。そりゃ、世界ニート選手権に出られるはずもないが、中区民大会で5位くらいには入れるかも、くらいの自信はある。
 ……ニートでいることの才能ってなんだ? そんなもんあるのかわからないから、勝手に考える。「ニートなのに稼ぎがある」とかいうのは論外だ。かといって、完全に廃人というのも違う。なんというか、なんにもしないのにそれなりに精神の安定が保たれていて、親か誰かの財産を食いつぶしていく以外は人に迷惑もかけない、というような。生産的ではないけど、いきなり小学校に突っ込んでガキ殺したりしないよっていうような。健康的な。なんか放っておいても、勝手に一人で本とか漫画とかゲームとか競馬とかしてよろしくやってるんで、みたいな。
 あ、これが俺に向いている分野。やったー! でも、フリーランスニートってなんだ? ニートの個人事務所ってなんだ? あ、自宅警備員ってやつ? よーし、就職だーって、俺はその実家がなくなったんだった! いつまでも、あると思うな親の金。それで、なんだかわからんけど、労働のまねごとみたいなものをして、糊口をしのいでいるのだった。いやーん、自由になりてー。

どうしてこうも中途半端 - 関内関外日記(跡地)

 つーわけで、やっぱり働かない方向、社会的に引きこもる方向に行きたいんだけど、どうしようもねえし。ただ、この日記にどんだけ自分の恥部を晒し続けてきたかとか、自分を相対化できている(のか?)という面では、なんかおれ、やっぱり変なパワーあるような気はしてきたよ。こう、なんだろう、それがいい方向に向けば……!
 でもさ、中島らも言ってたけど、こういうことでさ。

 だいたい、「憂うつなのです」と言う皆さんの話をよく聞くと、「そんな状態なら憂うつであるほうが当たり前、むしろこの人は健康だ」と思うことが多い。失恋したり、志望大学に落ちたりしたのに心が晴れやかではおかしいのです。「なんとかしなければ」と焦ったり、不機嫌になったりして当然です。当然な心理状態は健康だからこそ起こるのです。

 「おわりに」で執筆時にちょうど発生したという秋葉原の加藤君の事件に触れててさ。

 クリニックの受診者のひとりは言いました。
「あの人のように何度目かの仕事をクビになるとわかっていて次の職をどうしよう、借金をどうしようとなると、すべてがイヤになるんですね。以前の私のように首でも括るかということになる。私は死ねずにここにつながったわけですが、あの男のように死ぬ前に騒ぎを起こして、自分の存在を世間に知らせてやれという思いがなかったわけじゃありません」
 今の日本社会の特徴として言えるのは、格差社会の底辺・絶望層に棲むワーキング・プアたちが、かつては親の生きがいを担った「ナルシス王子」(自己愛に傷が入って、炎症を起こしたように自己愛肥大を起こした青年たち)であるということです。彼らは親と世間(親のメタファー)によって不当にも自らの地位を追われたと信じていますから、その恨みは深い。

 あれ、なんか急に心理学的味付け通俗的若者論みてえのが出てきたな。つーか、絶望層のワープアの俺が絶望すんのは当たり前だし、結局、金がないし、将来というか近未来の見通し、職場がなくなって、このていどの性能の俺ではこの世に居場所がないという事実が問題であって、ともかく金がないのがやばいのであって、俺の頭をおかしくするし、そんなもんに心理療法だのなんだのの悠長さは間に合わない。そんなもの、「かつてアカデミックな心理学の世界でよく耳にしたのは、精神分析療法は白人中流家庭のさほど問題がやっかいでない裕福な子女以外には向かない」って上の本の著者が言ってたしさ(現代的な手法ではそうじゃないんだよ、という文脈ですが)。そりゃ俺は「性格を変えようという野心的な目標を持った、言語表現能力の高い神経症水準の患者」かもしれねえが、でも中流家庭でもなくなっちまった。もう金はない。くそったれ、15年、いや、20年遅かった。金だ、金で全部解決する、不安は全部消え去る! 金が真の豊かさではないとか、幸せでないとかほざくやつは全員笑える死に方しろ、今すぐ。 いいから金よこせ、働かないけど金よこせ!
 今、おれに必要なのは脳を一発で変えるドラッグ、首をくくるロープ、よく切れる包丁、宝くじの一等、偽造した宝くじの一等!
 
 
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日本的霊性 (岩波文庫)

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新編 東洋的な見方 (岩波文庫)

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ぼくの人生案内 (知恵の森文庫)

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ひきこもれ―ひとりの時間をもつということ (だいわ文庫)

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悪人正機 (新潮文庫)

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 ……まあ、このあたり読んで頭冷やすか。
調律の帝国 (新潮文庫)

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 ……逆にヒートアップか。