おれは『ストライクウィッチーズ』で二度泣く

 まったく知らなかったのだが、月の初めはファーストデイだとかいって、映画が安く観られるのである。だが、おれが『ストライクウィッチーズ』をもう一度観に行ったのはそんなのが理由ではなかった。特典の応援画集なるものもとっくに品切れていたが、それが目的でもなかった。ただもう一度観たかったからそうしただけである。感想としては、このエントリのタイトルに尽きるが、いくつか、こないだ書かなかった些末事など適当に書き散らす。

なぜオトギリソウ/セントジョーンズワートか?

 冒頭、横須賀の山中(まあ、横須賀にあんな山や森や川や滝はないように思えし、だいたい熊はいなさそうだが)、本妻(かどうか議論の余地は大いにあろうが)のみっちゃんが見つけた薬草はオトギリソウである。
 オトギリソウといえば茎・葉に多くのタンニンを含み、民間薬として切り傷や打撲に用いられてきたことで知られる。薬草らしい薬草といっていい。このオトギリソウ、宮藤が天城艦内で勉強しているシーンで広げていたページにも出てきた。そして、とどめに映画版のペリーヌさんから渡されたハーブもセントジョーンズワート、これすなわちセイヨウオトギリソウである。
 扶桑とガリアともに自生している同属の植物で、おおよそ切り傷や打撲に用いる点では洋の東西を問わない。タンニンというおおまかな括りで、どういう機序で切り傷に効くのか知らんし、そもそもペリーヌさんに渡されたのは粉状に見えたがオイルやアルコール漬けでないのかどうかなどというあたりもわからん。わからんが、まあともかく、宮藤勉強してるし、実践してていいぞ、という話である。
 が、もう一歩わざわざこのオトギリソウが選ばれた理由を考えたい。3回も出てくるというのには、なにか理由があるに違いない。オトギリソウといえば「弟切草」であり、和名はいわくつきといっていい。秘伝の薬草を弟が他人に知らせたために、兄が斬り殺し、その血の跡が花の黒点になったという……だが、それか? 『ストライクウィッチーズ』に姉と妹はいても、兄と弟などどうでもいいのである。黒点に関する西洋側の由来といえば、キリストの脇腹からしたたった血とも聖ヨハネの首から散った血ともいい、血という点では同じだが、あのウィッチがあがめられる世界にキリスト教もなかろうて。
 と、ここでおれはあることに気づいた。オトギリソウの学名であるHypercum erectum、この種小名erectum、直立の性質を意味するのは言うまでもないが、エレクトすなわち、どうしてエレクチオンしないのよォーッである。
 なに? 『ストライクウィッチーズ』にエレクトするもの(男)は不要不在だと? 馬鹿な。劇場版『ストライクウィッチーズ』における特徴的なネウロイはどんな形状か? それはなんといっても地中より出でる大きく黒いかなまら様であって、まさに大地に直立する大エレクチオンとしか言いようがない。それが、すっごい溜め込んでいたのだよ! そう、すなわち、オトギリソウは早い段階でそれを暗示していたのだ!
 ……ごめんなさい、無理あった。つーか、「かなまら祭り」を見たあとでは、あのネウロイが黒いマラに見えて仕方ないのだからしかたない。
 ちなみに、セイヨウオトギリソウHypercum perforatum)といえば、いまやむしろ脳に効くサプリメント、国によっては薬剤として知られている。「医者に行くほどではないかもしれないが、脳の具合が悪い」というようなやつが買って食ったりするものとして知られよう。まあ、それに関しては1945年時点であまり考慮すべき性質のものとは思わない。

 ところで、これらオトギリソウ属、ヒペリカムの仲間といえば、ガーデニングや造園植物としてビヨウヤナギやヒペリカム カリシナム、ヒペリカム ‘ヒデコート’(……英国王立園芸協会日本支部が出してる図鑑だと‘ヒドコート’になってて、そっちが発音に近い表記ではないかろうか、とか言い出すと「ヒペリクム」じゃねえのか、「カリキヌム」じゃねえのかみたいな話にもなっちゃうが)が街中のそこらで見られるが、こいつらは薬効あるんだろうか。返り血のあとはないようだけれども。

図説 花と樹の事典

図説 花と樹の事典

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 柏書房
  • 発売日: 2005/04/01
  • メディア: 単行本

 ……参考文献。わりと幅広く小咄するにはいいネタ元になるし、読んでて面白いけど、諸説網羅みたいにはさすがにならんので、渡来時期言い切ったりしてるあたりとか、頼り切るのは不安なところも。学名の分類も新しいAPG分類ではない。

増槽について

 フル装備のお姉ちゃんとエーリカが戦闘に入るとき、増槽を切り離すあのシーンが好きだ。増槽を切り離すというのには、なにかロマンがある。戦闘やむなし! という悲愴な決意であり、とにかく身軽なものが有利であるという合理性でもある。『零戦燃ゆ』読もうが、松本零士読もうが、なにかこう、交戦に入って増槽を捨てるのがいいなぁって思うのだ。いいや、そういう説明などできやしない。

 おれの中では、これに属する話である。ゆえに、お姉ちゃんの銃身交換とかも「好きなんだろ?」と言われたら「好きです」としか言いようがない。おれは中学生のころ一時期ミリタリー物(フロンガス使ったガスガンとかな)にはまったくらいのもので、たいした知識はないが、このへんの「男の子回路」あたりについてはなにか抱いていることは間違いなく、『ストライクウィッチーズ』にはそれも詰まっているといえる。それゆえに、ラジオで言うほど女性の観客は見かけない、あの野郎だらけの館内となるのだろう。いや、NTRの女性がいるくらいなのだから、増槽切り離しに「いいなぁ」と思う女性だってきっといるにちがいない。

エイラーニャと大和

 これ、初見のときはぜんぜん気づかなかった。正直に告白しますと、でかいネウロイないし巣に出くわして場面転換と思ってた。考えてみたら、ネウロイだったらサーニャのアンテナが反応しなきゃおかしい。それで、そのあとの、あの発進シーンのシルエットの意味するところにも気づけなかった。目が潤んでいたせいかもしれない。いや、読解力不足だ。
 まあ、そうなると、いままでのミーナさん以上にもっさんが裏方というか、そういう方向で動いてるんじゃないかというところであって、501再結成の根回し的ななにかもそうなっているのやもしらん。それで、たとえば今度、大和が移動基地になるのだろうかなどと想像したっていいじゃないか。ウィッチがストライカーユニット履いて飛び立つ分には、空母なんていらんかったんや(ところで、シャーリーとルッキーニが小型艇に隠してあったストライカーユニットで飛び出すシーン、前のカットでは「501」の文字が見えたが、飛び立つところでは見えなかった。べつの船だろうか)。
 というか、大和である。戦艦大和。ちょっと大きな主語で言ってしまえば、日本人のどっかに「大和を活躍させてやりたかった」というような、妙な思い入れはないだろうか。たとえ沈められようが、戦艦相手の大砲の撃ち合いをさせてやりたかったと。それゆえに、戦後、宇宙戦艦になったりしたり、この映画でこんなんなったりしたり。
 で、大和とウィッチーズと。大艦巨砲と少女たち……なんというか、まあ言葉にしてしまうといかにもグロテスクで歪んだ欲望、フロイト呼んでこい、みたいな話にしかならん。ならんが、だからなんだといいたい。繰り返し言うが、『ストライクウィッチーズ』にはともかく魂が込められているのであって、まったくああ言われてしまえばまだ死ねない、セントジョーンズワートのサプリなんぞ食わず(まあ、ずっと食ってなかったけど)、もっとちゃんとしたお医者さまの処方薬食って、もう少し生きてやろうと、そう思わずにはおられんじゃないか。わかったか!


娘TYPE (ニャンタイプ) 2012年 05月号 [雑誌]

娘TYPE (ニャンタイプ) 2012年 05月号 [雑誌]

 ……ラジオ収録インタビューのところで、福圓さんが例のアレに触れるシーンについて述べてて、おれもそこよかったって書いたぜとか思った。

映画メモ______________________
 今年映画館で見た映画は『恋の罪』『ヒミズ』『国道20号線』『サウダーヂ』『天皇ごっこ 見沢知廉たった一人の革命』『劇場版ストライクウィッチーズ』に続き7本目。え、同じ映画ってカウントに入れていいんだろうか。しかも、同じ映画館の同じ席。まあいいや。