『ロシア秘密警察の歴史―イワン雷帝からゴルバチョフへ』を読む

ロシア秘密警察の歴史―イワン雷帝からゴルバチョフへ

ロシア秘密警察の歴史―イワン雷帝からゴルバチョフへ

モンゴル人の統治のエッセンスを受け継ぎ、イワン雷帝から400年にわたって鍛え上げられてきた、「見えざる恐怖の国家保安機関」。“東西協調”のかげで一層激化する情報戦を担う現在のKGBに至るまでを、厖大な資料と証言を駆使しながら、歴史家の眼が活写する。

 おれの今の流行というと社会革命党戦闘団とロシア〜ソヴェートの秘密警察と第二次世界大戦独ソ戦周辺あたりになるのだが、エンツェンスベルガーが「ロシアの最初の有効な秘密結社は皇帝官房第三部であって、これが若いロシアの無慈悲な教師となったのだ」って書いてて、その間で二重スパイやってたエヴノ・アゼフに興味持ったりしたんだけど、まあそれはともかく「無慈悲な教師」の教え子が国を作ったあとも、よりいっそう忠実な生徒であり続けたんじゃないかみたいな印象があって、そのあたり押さえてみようかと手に取ったのが本書。謳い文句の皇帝官房第三部どころかモンゴル人の統治からかよ!? みたいな驚きもあったんだけど。
 でもまあ、なんつーのか、なんかなー、まあモンゴル人にはちらっと触れてて、「そもそも野蛮なモンゴル人」とか書いてる時点で「あれ?」って思ったりしたんだけど、なんかイギリス人の上から目線みてえな、たまにネットでイギリス発の現代アジア分析記事(もちろん翻訳されたやつ)とか読んでて感じる、そういう見下し感みてえのが濃くて、結局ロシア人もなんかその、民族的な猜疑心の強さとかそういうやつが強いんだ、みたいなところの決めつけが……感じられて。そんで、現代に近づくにつれ、わりと反共色が濃くなって、あれもこれも……ピョートル・カピッツァもレフ・ランダウもジョン・デスモンド・バナールもソ連のスパイだ! って断定してて、いや、そんな名前ぜんぜん知らなかったけど、いずれもなんか興味深そうな人ではあるんだけど(科学的な業績についてはさっぱりわからんが)。
 そんでも、まあ、イワン雷帝のオプリーチニキから始まって、えーと、まあゴルバチョフグラスノスチ下のKGBまで追っていく、なんというのか、一通り感みたいなのはあって、嘘か真かわからんが(まあそれが秘密警察やスパイってもんだろうが)、いろいろと興味深い人物がザクザク出てきてそういう意味ではおもしろかった。スターリンがオフラーナの二重スパイで、反目する革命組織のスパイを売りつつ情報を得ていたとかほんとかね。あと、切り裂きジャックもオフラーナの送り込んだ挑発者で、どこそこの誰々だったとかいう話もあったが、ほんとかね。なんか、断言しすぎじゃねえの、って思えるような。
 まあいいや。でもなんだね、ジョージ・ブレイクなりシドニー・ライリーなり、映画みたいなスパイってのは実在したもんだなとか、妙に感心するところもあるわな。
 ああ、あと、ソ連は「うちの国にスパイなんて退廃したものは存在しない!」ってやってきたのを、なんかの方針転換でリヒャルト・ゾルゲを讃え出したりして、過去の優秀なスパイの話を新聞に載っけたり、映画作ったりして、って話で。そんで、まあKGBなんていうともう秘密警察の中じゃ開かれた存在? じゃないけど、そういうイメージ作りしてって、そういうの見て「KGBに入りたい!」って少年が出てきたりしたんだなーとか。

やがてプーチンは映画や小説からスパイに憧れを抱き、ソ連国家保安委員会(KGB)への就職を考えるようになる。14才の9年生(日本でいう中学3年生)の時に彼はKGB支部を訪問し、応対した職員にどうすればKGBに就職できるのか質問した。職員は少年の質問にきわめて真率に対応し、KGBは自ら志願してきた者を絶対に採用しないため、今後は自分からKGBにコンタクトしてはならないこと、大学の専攻は法学部が有利であること、言動や思想的な問題点があってはならないこと、スポーツの実績は対象者の選考で有利に働くことなどの現実的な助言を与えた。

 まあしかし、おれにはなにか、現代に近づくにつれ興味が失せていったところも否めず、とりあえずサヴィンコフの『テロリスト群像』に戻るわ。そのあとベリヤね。しかし、アゼフの弟が戦闘団に入ってきたなんて話、2冊のアゼフ本にあったかしらん?

関連______________________

……本書もアゼフに一章使ってるけど、ネタ本はこっちだったな。まあ、もう一つは小説か。