お湯を入れたカップ麺を持って街を歩く

皆に踏みつけられてバラバラになったイチョウの落ち葉、今年の冬は新調しようと思ったティンバーランド、いつものヤクザのマセラティ

両手でお湯の入ったカップ麺を恭しくいただいて歩くサラリーマン、とすれ違う。

おれはコンビニでカップ麺にお湯を入れたことはない。お湯を入れたカップ麺を持って街を歩いたことは、ない。

想像するに、それはひとつの冒険。

まず、お湯を入れる前に、手際よく袋を取り出し、先入れか後入れか仕分けなくてはならない。後入れスープやかやくの袋が出たら、カップの蓋の上に置いて運ぶのか、服のポケットに入れるのか。コンビニの扉はどうだ。自動ドアじゃなかったら、肩というか半身というか、全体で持って押し開けなくてはならない。お湯をこぼしてはならない。オフィスに戻る。オフィスのドアはどういうタイプか。そもそもドアの前に階段をのぼるのか、エレベータがあるのか。エレベータの中をカップ麺の香りで満たすのは社会人のマナーに反するのか。それら難関をくぐり抜け、自分の席なりに戻るまでに3分ないし4分以内でいけるのか。

想像するに、なかなかに難しいタスク。

おれは道に落ちたイチョウの落ち葉はバラバラになった。

おれはティンバーランドのブーツを新調しない。

おれはいつもの場所に駐めてあるヤクザのマセラティ

おれはお湯を入れたカップ麺を持って街を歩いたことは、ない。