あなたたちは僕がすばらしい細密画を描くのを見たことがないから


 あなたたちは僕がすばらしい細密画を描くのを見たことがないから。些細な記憶に限って細密な装飾をほどこした鍵付きの箱に入っているものだから、おおよそ力強いものに砕かれて、斜めに射し込んでくる白日に晒されてしまう。右にカンパ、左にキーノ。あるいは、左にカンパ、右にキーノ。かつてローマ教皇であったものは、ミトラの紋章の入った名刺を差し出す。「やっておしまいなさい、パウロさん、ペテロさん」。銀幕のやくざたちはいつも極端ながに股で鉄砲を撃つ。もっと近づいて、腹ではなくて頭を撃てばいいじゃない。銀幕のやくざたちはいつもそう言われる。しかし、本当に人を撃つということはそう簡単な話じゃないんだ。そんなに近づいて、頭をきちんと撃ち抜くなんて。そういうとやくざはLe Grand Écartの体勢になって、実に奇妙な、それでいてスムーズな動きで、大竹の街に帰っていった。この世のすべてのやくざたちが大竹に。僕の父が育った大竹の街に。僕は夢の中で鯉の刺青の入った自分の背中を見た。大きな鯉の背には美しい若武者が描かれていた。背中の左下から右上にかけて、鯉は勢いよく昇っていくようだった。すばらしい刺青の夢を見た。だから、あなたたちは僕がすばらしい細密画を描くのを見たことがないから。一つは天球の上に立つこと。二つは天球の上を歩くこと。三つはコンビニエンス・ストアーで普段は買わない週刊誌を買うこと。僕にはミトラの紋章も目に入らない。あのスーパー・マーケットにいた、所作が異様といっていいほどに美しい店員はもういない。五分前と五年前に何の違いのあることか。パウロさん、ペテロさん、プリムラの花が咲いています。パウロさん、ペテロさん、ウメの花が咲いています。やっておしまいなさい。呵々。ローマ教皇はPaganの風下に立ったことはないんでぇ!