おれには日本の歌声が聞こえる、いろいろの呪詛が聞こえる
期間工は自分の自動車で会社の門に突撃する歌を小声で歌う
就職にあぶれた新卒者はハロー・ワークの行きと帰りに歌う
結婚できない男女は婚活の前と後になげきの歌を歌う
ヤバすぎるネオヒルズ族が札束を数える歌を歌う
フェラーリのクラクションは寿町の年寄りを蹴散らす
客の入らぬ飲食店のおやじは居抜きの椅子にもたれて歌う
大企業のペテン師経営者はグローバリゼーションを歌う
零細企業の社長はロープの輪っかの前で歌う
育児ノイローゼの母親の幼児を泣かせる耳障りな音
慎みを忘れた年寄りの店内に鳴り響くかんしゃく
いまかいまかと破裂のときを待つ
圧力鍋の中の獣臭いラーメンの歌が聞こえる
……日曜日、映画まで時間が空いたので、図書館でホイットマンの抄訳詩集2冊を読むなどする。一人称は「おれ」がしっくりくるように思える。それだけの話だ。本当のところ、おれは他人の歌など聞こえやしない。そんな余裕はない。言うまでもないことだ。
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おれにはアメリカの歌声が聴こえる―草の葉(抄) (光文社古典新訳文庫)
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