水島広子『対人療法でなおす双極性障害』を読む

P.146〜

 肥満双極性障害予後不良因子であることが報告されていますし、運動には気分安定効果がありますので、適度に運動したり、健康な食物をとったりすることはプラスと考えられます。

 ただし、あまり体重のことを気にしすぎるのはお勧めできません。摂食障害というリスクがあるからです。双極性障害の方が摂食障害を併存していることは少なくありません。

……また、双極性障害の方が摂食障害になるのは、うつ状態に対する自己治療の試みであることが少なくありません。ダイエットをして痩せれば自信がついて気持ちが明るくなるだろうと思うのです(実際には、自信がつくどころか、単に二つの病気に苦しむ結果に終わります)。

 このくだりを読んで、身に覚えがありすぎて頭がクラクラした。第一選択薬リチウムというか、リチウムで鉄板みたいな書かれ方をしていて、ちょっと前の本(といっても、2010年、春! なのだから、薬事情も変わるものだ)なのだけれども、病気で頭がおかしい人間のやることというのはティピカルなものなのだとあらためて感じたわけだ。いやはや。
 あ、証拠出しとこう。

「体調はよかったんですよ、7月くらいからダイエットはじめて」
「どのくらい痩せたの?」
「今52kgくらいで、だいたい一番のときに65kgありました」
「ええっ、それは摂食障害って判定されるレベルの減らし方なの!」
「えっ」

 ほかにももう一個。p.144〜。

 双極性障害と依存症は関連性があります。すべての理由が明らかになっているわけではありませんが、不眠のときや気分の落ち込むときはアルコールを使いたくなるものですし、ドロドロしたうつ状態のなか、軽躁状態の快感を再現したくて薬物を使う人もいます。

 改めてはっきり申し上げますが、症状を改善するためにアルコールや薬物を使うことは、完全に逆効果です。まったくお勧めできません。

 おれはもとより、日常的に止まらない動悸、不安感を受け続けている。漠然とした恐怖の中で何かをすり減らされつづけ、まったくスポイルされてしまったような人間だ。ただでさえそうなのに、多量のストレス群が脳の中の不安発生回転体をいっそう回す。
 アルコールというのは、一時的にそいつらをまとめて始末してくれる。こんなに効くクスリなんてねえだろ。大麻とか覚せい剤とかは知らないが、おれにはアルコールで十分だ。

 これなんて一ヶ月ちょっと前じゃねえか。爆笑。
 こんな具合だ。
 で、水島先生もこうおっしゃってる。

……双極性障害の場合には、「過去を振り返ること」が大切です。過去を振り返るのは、自分が躁状態のときに「しでかしてしまったこと」への罪悪感を強めるためではなく、過去をデータベースとして使うためです。今までの経過は貴重な情報の宝庫であり、ほかでは得られないものなのです。

 というわけで、個人の日記から軽躁状態うつ状態を判定するソフトとかねえのかよ、とか思ったり。でも、われながらわが病状についてテキストとして残っているというのは悪くない。医者が最初にどんな投薬をしたのかとか、そういうのもわかる(まあ、おくすり手帳もあるけど)。最初から双極性疑われてたんじゃねえかとか、そんな想像もできる。違うかもしらんが、まあね。
 で、本書は、なんか肝心なところは姉妹本の単極性うつの読んでよみたいなところもあるけど、あれだ、レコーディング・ダイエットだっけ、あんなふうに記録つけてなにがきっかけで転ずるのか、あるいは季節と関係あるのか、ともかく社会リズム? とかストレスと、てめえの脳みその状態を把握しておけってのがまずあって、あとは規則正しく、とくに睡眠がすげえ重要みたいなお話でした、と。
 いや、随所に著者のやさしさの感じられる本で、無理のたたる病気だが、無理をさせる社会のほうが間違ってるとか、そりゃごもっともでありがたい。ありがたいが、とくに才もない貧乏人、無理して食い扶持をどうにかせにゃならん。無理する仕事があるうちはいいが、なくなったらどうするのか。自分の社会リズムを優先するのが重要だ、とおっしゃられる上に、こうだ。p.137〜。

 もちろん、すべての変化を予測できるわけではありませんから、突然職を失ったり、離婚されたり、というようなことも起こります。こういうときには、自分の受けた心の傷を認めて癒すことが必要であると同時に、社会リズムを崩さないという視点も必要になります。突然職を失った、突然離婚された、というようなときに、規則正しく生活などしていられないと思うのが人情ですが、ここは違う考え方をする必要があります。

 ……いや、その余裕はどっから出てくるんだ。余裕というか、金は。いや、言ってることはすげえわかる。というのも、おれが親の金で余裕綽々のひきこもり、真のニートをしているとき、なぜか自分を律しようというスイッチが入り、昼夜逆転ながらも規則正しい生活をし、我が身を清潔に保っていたりしたわけだ。その結果、なんというのだろうか、精神的にすごく安定し、家族や社会に暴力を振るうでもない、紳士的なニートでいられたのだ。アタラクシアかニルヴァーナかしらないが、ある意味で立派な社会の屑だった。
 が、二度目はない。喜劇としても二度目はない。もう親のスネは食いちぎってしまった。……というか、親は親で、とくに父親が自壊したんだけど。それもたぶん今思えばおれのをもっと悪化させたような精神疾患で。
 というわけで、参考になったようなならないような、そんなもんだった。まあ、一冊本を読んだだけで光明が差すような本があるとしたら、そいつはたぶんインチキだろう。書いてるのはしごく真っ当なことのように思えた。それは確かだ。でも、おれに必要なのは金なんだ。といっても、おれは金を稼ごうとかそういうのが大の苦手なんだ。人間とも関わりたくない。ああ、おれが欲しいのはあぶくのような銭、さあ、早く土曜競馬の予想を始めるんだ。目指せアタラクシア、ニルヴァーナ、オンクラウドナイン!