セラミック包丁殺人事件について

 東急ハンズの台所用品売り場で、真っ白なセラミック包丁を見てふと思ったのだけれど、セラミック包丁で刺されたり切られたりして死んだやつはいるのだろうか。セラミック包丁によって人を刺したり切ったりして殺したやつはいるのだろうか。そういうニュースは聞いたことがないけれども、この世には多くの人間もいることだし、セラミック包丁とてめずらしいものではないのだから、きっといるのだろうと思う。
 けど、なにかセラミック包丁と殺人というのは似合わないような気がする。漁師がマグロ切り包丁でヤクザを惨殺などというと、例としては行き過ぎな気がするが、まああまりセラミック包丁は似合わないように思える。自分が殺されるときのことを考えてみても、「セラミックはちょっと」という人が多いのではないだろうか。世論調査などしてみるといい。ステンレスと鋼ではどちらがいいか。モリブデン鋼はどうか(はじめ「モリブデン公」と変換したので、どんな公爵かいずれ調べてみたいと思う。ひょっとしたらモリブデン鋼を発明して爵位を賜った人かもしれない)。
 あるいは、殺す立場になってみると、咄嗟の場合であっても、台所でセラミック包丁を手に取るだろうか。まな板で叩いた方が強そうな気すらする。あるいはお玉とかを選んでしまうかもしれない。セラミックにはどこか脆そうな印象がある。
 計画的な場合はどうだろう。これまた、あらたに買い求めるとしても、やはりセラミックは選ばないだろう。そこはむしろ、100円ショップで買った安いステンレス包丁などの方がしっくりくる。しょうもない穴とか空いていて、血がそこを通るのを想像できる。
 セラミック包丁についても、もうちょっと具体的に想像してみたらどうだろうか。スパッと首を切りつけ、白い刃にしたたる鮮血。赤と白でめでたい感じになりはしないだろうか。おれはセラミックの包丁を持っていないで、水分が表面でどんなふうになるのか少し想像しかねるところはある。
 と、ここで気づいたのだけれど、おれはセラミック包丁=白と決めつけてしまっている。中には黒いものもある。真っ黒だ。真っ黒なそれでスパッとやるとなると、それなりに絵になるかもしれない。握りのところまで真っ黒だったりすると、特殊部隊の武器のように見えるかもしれない。
 とはいえ、包丁を使った殺人なのだから、夫婦間の怨恨あたりであってほしい。奥さんが凶行に及ぶとしても、そこに特殊部隊らしさが必要かというと、わりと問題になる。アルコール依存症の夫が今夜も深酒で眠りこけている。そこに上下真っ黒のつなぎを着て、暗視ゴーグルを装着し、右手に黒いセラミック包丁をした妻が足音もなく……。オーバーキルの感は否めない。夫婦間の怨恨のラインだったら、やけにでかいガラス製の灰皿あたりがいい。愛人とのもつれでも、やけにでかいガラス製の灰皿というのがいい。しかし、現代では喫煙率も減少傾向にあるし、そういった光景が見られることも年々少なくなってきている。私のような昭和世代にはさみしい話である。
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※料理にお使い下さい。