黄金船の夕暮れ

 黄金船がわたしたちの自慢の港に美しい船体を滑り込ませるころ、日が沈んだあとのしばらくのトワイライトのころ、わたしはお気に入りの服に身をつつみアパートメントをあとにしたのでした。色とりどりの街灯は静かについたり消えたりしながら街を彩り、商店のウィンドーからは暖かい光がもれていたのです。道行く人々もそれぞれの歩調で思い思いの方に向かって歩いていました。わたしもかつかつと靴音を響かせてメーン・ストリートをあてどなく歩いていました。ふと空を見れば一番星が輝き、太陽の残滓がオレンジ色から深みあるダーク・ブルーへとグラデーションを描いていました。そんな空に切れ目を入れるように、流れ星が一つ、二つ、三つと、エメラルド・グリーンの太い尾を引きながら通りすぎ、消えていきました。わたしはステッキで街灯の一つをカツンと叩くと、いくぶんたくさんの煙を吐き出しながら、空に向かって少し斜めになりながら飛び出していきます。わたしが次に消火栓をコツンと叩くと、虹の七つ色の雨が地上から空に向かって降り上がりはじめます。最後にわたしがわたしの頭をカーンと叩くと、あらゆる光の色の渦が脳裡に生じ、わたしが目にするもの触れるものすべてが黄金に変わっていきます。そうしてわたしはあらゆるものを黄金に変えながら港までたどりついたのです。そびえ立つ黄金船は大きな動物が身を休めるように繋留されていました。わたしは黄金色のタラップをタラタラと昇りました。遮る者もあとを押す者もありませんでした。そうして、わたしは黄金船の乗客の一人になったのでした。そして、行き先もわからぬ長い長い航海へと出たのでした。