『プロレス少女伝説』を読む

 この記事とそのブックマークを読んで、現代の「心を折る」の出どころであるという本書が気になった。気になったので、読んだ。一気に読んだ。読んで、意外にも話が女相撲興行の歴史に飛んだりしたのもよかった。興行としての女相撲女相撲でなかなか興味深かった。村々をめぐる興行、その輝きに魅せられて村を出奔する女たち。
 が、この本は主に四人の女子プロレスラーの話だ。神取しのぶ(神取忍)、天田麗文、デブラ・ミシェリー、そして長与千種。はっきりいって、おれは本書で取り上げられている女子プロレスブームも知らないし、女子プロレス世界も知ってるとはいえない。おれがかすかに覚えているのは、ダンプ松本がテレビのバラエティ番組によく出ていたという幼少のころのこと。そうだ、子どものころダンプ松本女子プロレスラーだった。その程度。だから、名前を知っているのも神取忍くらいのもの。そして、今、どんな女子プロレス団体が存在しているのかなども、さっぱり知らない。しかし、この本は面白かった。
 神取忍のインタビューは一番読ませる。奇しくもアントニオ猪木が国政復帰なんていうタイミングだけれども、神取も国会議員になったことあったんだっけ。そうだ、政治に向いているかどうか、政治の中でたち振る舞える人物かどうかわからないが、間違いなく神取忍は一角の人物のように思える。国会に向く人物かどうかわからないが、自分の頭で考え、自分で立っていられる、たとえば十万、百万に一人の人物のように。
 神取が柔道を捨てて入った女子プロレスの世界。女子格闘技興行の下地があり(女相撲)、初めから女子プロレスとして存在し(男子プロレスの添え物でなく)、ある意味では女子レスリング(アマレス)の元にもなっった女子プロレス。中国から来た天田麗文(彼女のかたる中国の、長江の川の民の話も興味深い)、デブラ・ミシェリーから見た「日本」の特異な世界。
 それは上意下達の日本の学校的体育会系世界の延長のようでもあり、それが、ときの女子プロレスファン(クラッシュ・ギャルズ)の少女たちに支持される。自分たちの境遇を重ねあわせられるから、なのだろうか。親衛隊を結成し、野次を飛ばす中年男性ファンを会場から追い出す彼女ら。そのファンの心情についても気になった。著者も一歩引いてしまうというその熱気。おれもなにかにそれだけ熱気を持つということを、少なくとも十代のころに持たなかったからわかりはしない。これからもわかりはしないだろう。

 最後に、彼女らのその後が気になったので。なにせ、プロレスラーというのはいつ引退するのか戻るのかよくわからない。しかし、メドゥーサがプロレスのあとモンスタートラック競技やってたってのは……らしいといえばらしいか。