「はい、次? おたくはなにしたの? ピザ生地に自分のマヨネーズを? 違う? というか、なにかねこの名前、警察で冗談は困るんだけどね?」
「いえ、あの、マン・オブ・スティールです……」
「マンノウォーだかフラッシュオブスティールかなんだか知らないけどね、そういうの困るんだよ。それになんだそのマント、おまえアカか? アカのどん百姓さんですか? 住所不定、職業不詳、乞食罪加えてもいいんだよ、こっちは」
「加えるって、その、なんで、そもそも自分はここにこうやって手錠をされてるのかもわからないのですが」
「そりゃあ決まってるだろ、わいせつ石こう罪だ。それ以外でここに送られてくるやつなんていない……」
「ちょっとまってください、もうそんな話とっくに旬を過ぎてる。それにこのタイトル見てくださいよ、話が違うでしょうが」
「そりゃあ、まあたしかにおたくの言うとおりだ。よしちょっと書いてるやつに説明してもらおうか」
急におれは話を振られて困惑した。
スーパーマンにも官憲にも逆らうのは得じゃあないからだ。
「えーとですね、この囚われたスーパーマンの身と国家権力、暴力装置の対比というものからですね、善の力とはいかなるものぞやと、そのあたりの批評を書こうかと。その、シリア、そう、シリアでの米軍の行為についてですとか、ほらあの、一部で流行ってる『ガッチャマンクラウズ』における人民と英雄の話をですね、その古いアナボル論争みたいなところとの対比に話を持っていって、その英雄の苦悩というものについてですね……」
「おまえ、嘘ついてるだろ」と警察官は言った。
「すみません」とおれ。
「あの、実際のところなんですがね、映画本編が始まる前に、なんで金払ってるのに不動産やセブンイレブンの弁当のCM見せられなきゃなんねえんだって思ったのは覚えてるんですよ。で、映画はじまるマン・オブ・スティールさんが生まれて、なんらかの反乱が起きて……、その、そのあたりでガクンと来てしまいまして……目が覚めたらその、教会? それで、取調室みたいなところでして。それで、これからは見るぞとおもったんですが、あー、宇宙船? みたいなところで、お父さん? みたいなのが、おお、わいの長井よみたいに出てきて助けるじゃないですか、えーと、そうしたら、またガクンと来て、小粋なプラネット・エンドで。ええ、長い長いエンドロールは見たですけど」
「じゃあなに、ぼくの活躍も葛藤もなにも見ていないと」とマン・オブ・スティール。
「ああ、その、すごく速く飛んでいるところは見たような気がするんですけど、その、人助けも戦うのも拝見していませんで。まあ、正味十八分見たかどうか怪しくて」とおれ。
「おまえ、金もないのになにもったいないことしてんの?」と警察官。
「とくに夜更かしもしていないし、早起きもしていないし、薬もいつもどおりで、それにしてはちょっと自分でも驚いてるんですよ。つまらないから寝たというにしては、そう判断する間もない段階で落ちてますし」とおれ。
「けど、そもそもおまえアメコミとか向こうのヒーロー物、せいぜい最近の『バットマン』三部作レンタルで見たくらいだよな? スーパーマンよりスッパマンとかパーマンだよな。興味なかったんだろ、興味が!」とおれ。
「そりゃまあ実際そうなんだけど、やっぱりその、しかし、この寝落ちというのは予想外で。バトルシーンの轟音とか、逆に心地よい眠りを誘うとか研究結果ないですかね? それともハンス・ジマーが悪いんじゃないの」とおれ。
「いや、ハンス・ジマー悪くないでしょ。よくない、人のせいにするのはよくない。しかしなんだ、ほんとうに覚えているのはさっき言ったあたりだけだと。スーパーマン観に行ってノーバトル、ノー人助け。なんなんだよ」とおれ。
「まあそういうわけで、はっきりいってこの映画の良し悪しもなにもわからなかった。ただ、久しぶりに授業中に睡魔と戦う気分を味わったのも確かだ。ただ、そんなに戦えなかった。おれはヒーローじゃないからだ。これで終わっていい?」とおれ。
「しかたないだろ、もう話広がらなし、まったくクソしょうもねえや」とマン・オブ・スティール。
「まったくだ」と警察官。
「それじゃお開きだ」とハンス・ジマー。
そして、六人の男たちはそれぞれの方向に向かって歩み始めた。それぞれの未来へ。
おしまい。