人間、「ラク」じゃいけねえのかよ。「したたか」に逃げてちゃいけねえのかよ。


 エンツェンスベルガーの『がんこなハマーシュタイン』の中に、ハマーシュタインの言葉として「不安は世界観ではない」というのがあった。いまいち意味を掴みかねた。どうもアランとかいうやつの箴言じゃないかと思う。あるいはそのアレンジ、それともまったく違うか。よくわからないが、まあどうでもいい。そいつの箴言はこんなものだ。

 Le pessimisme est d'humeur ; l'optimisme est de volonté.
 ペシミズムは気分だ。オプティミズムは意志だ。

 そんな感じだろうか。悲観主義は主義なんかじゃなく気分、雰囲気とかそんなものだ。だから、きちんと意志を持たねば楽観主義に至れぬ、そんな話だろうか。よくわからない。よくわからないが、だいたい合ってるような気がする。これといった目的もなく、生きがいもなく、成功することとも無縁で、ただだらだらと生きている人間は無限の悲観主義に陥っていく。意志が必要だ。意志を持って生きねばならない。……そんなのは面倒くさい。おれは「志」の文字が大嫌いだ。

 そうだ、そんなことをこの漫画と解説を読んで思ったりしたのだった。

○ うつになりやすい人ほど、「過度の一般化」という思考をしてしまう。
○ 「過度の一般化」とは「いつも」「みんな」「絶対」という思考。
○ その言い方をしないように気をつけるだけでも、気持ちは変わってくる。

さて、でもこの思考。
これ、一見不幸なことのように思えます。
しかし実は人は、「ラク」だから、この思考をしているのです。

パッと見ネガティブで哀れなように思えますが、実はものすごく「したたか」なのです。

 おいやめろ。
 おれは一応、処方薬から双極性障害躁うつ病)気味なのだろうが、この抑うつの中をずっと生きてきたといっていい。はじめは強迫性障害と言われた。おそらく、それも混じっている。そんなこのおれの世界観が認知の歪みだとしたら、もう手遅れとしか思えない。←ほら、こうやってすきあらば「ラク」を選ぼうとしている。お前に言われんでもわかっとる。
 ……けど、人間、「ラク」じゃいけねえのかよ。「したたか」に逃げてちゃいけねえのかよ。おれは心底そう思う。
 そう思うのだけれど、結局、あれこれの地獄を詰め込んだような労働をしなくては生きていけない。「ラク」も「したたか」も許されない。この社会の、この働かなければいけない階層に生まれた人間に課せられた刑だ。おれが泣こうが喚こうがそういうものだ。生きたければ認知療法でも薬物療法でも電パチでも受けて、野戦病院から戦場に戻らなければいけない。逃げ出せば撃たれ死ぬ。と、言いたいが逃げ場などありはしない。どうせなら殺してくれればいいのに。督戦隊はどこで何をしている? (……ここでおれが比較的督戦隊を望むのは、おれが過酷な環境に放り込まれたら放り込まれたでスタハノフほどでないにせよ「動ける」人間だったというちっぽけな自負があることを認めなくてはならない)
 そうだ、どこにもファミコンシューティングゲームにあったような無敵地帯なんてありゃしない。少なくとも、俺に関してはそうだ。いくらかの夢でもあれば、ノートいっぱいに「失敗した失敗した失敗した……」と書いたりするところだろう。失敗したのは確かだが、おれにはそんなことを書く動機もない。したいこと、なりたいもの、べつにないのだから。
 というわけで、もうそろそろ迫るおれの選択肢は自死か路上か刑務所だ。と、言いたいところだが、薬のせいで宅間守濃度というものが限りなくゼロに近い。ジプレキサはたいしたものだ。作ったやつは誇っていい。となると、いくらかの猶予のあと、自分で死ぬかホームレスになるのかの二択だ。え、新しい環境で働く? なにそれ?
 路上を想像する。暑かったり寒かったり臭かったり固かったりしそうでかなわない。また、そこに至るまでのいくつかの過程を考えると面倒だ。他人の悪意や憎しみ、軽蔑をさんざんに浴びた上でそうなるに違いない。おれは社会的階層の滑り台を落ちてきた人間だが、落ちるにも限度はあるだろう。
 ゆえに、おれはこのごろ自殺のことばかり考えている。自殺は「ラク」で「したたか」のように思える。路上からの下から目線より、欣求浄土、梅の咲き誇る三千世界のどこかで、寝っ転がりながら娑婆を見下ろしてやろう。いつか人間は「ラク」が許される世界を作れるのか? せいぜい頑張ってくれ。ただ、怠け者には怠け者の世界を作ることはできないだろうな。なにせ怠け者だからね。これを永久革命者の悲哀と呼ぶかどうかは知らないけれど。
 ……とか書いてるおれが、数カ月後元気に外食チェーンスク水を捌く姿が! ってなる可能性もなきにしもあらず。まあ、死ぬ死ぬ言ってる人間が本当に死ぬのかどうかの実験だな、これは。

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